
今月8日、ツアー通算12勝の小祝さくらが手首の手術を行うため、今季残り試合を欠場することを発表。2017年にプロテストに合格してから休むことなく試合に出続け、ケガとは無縁の存在だと思われていた“鉄人”の長期離脱に、発表直後の「ソニー 日本女子プロ選手権」の会場では小祝を心配する声が続出した。
小祝はマネジメント会社を通じて、手首のケガが『TFCC損傷(尺骨側手関節三角線維軟骨複合体損傷)』と診断されたことを明かした。TFCC損傷とは、手首(特に小指側)にある軟骨と靱帯の複合体である「三角線維軟複合体(TFCC)」が損傷した状態で、ゴルファーをはじめ手首を酷使するスポーツ選手にみられる症状。過去にはプロゴルファーの古閑美保、有村智恵らも同様のケガをしている。
有村はツアーの最前線を引っ張っていた11年8月に、TFCC損傷の診断を受けた。「絶対にこうすれば治る、っていう治療法が私の時にはなかったので、かなり絶望感がありました」と本人はメジャー会場で話していた。最初はインパクト時に痛みが走り、次第にペットボトルのキャップを開ける動作さえままならなくなったという。
発症後、1カ月だけ休んですぐさまツアーに復帰。優勝も果たしたが、翌シーズンはケガを理由に開幕から3試合続けて欠場した。「2カ月くらいまったくクラブを握らない時間を作ったことで、ここ十何年、痛みは出ていません」。ただ当時を振り返ると、後悔が大きく残っている。
「そのあとスランプになったのも、“手首を痛めた”というのが大きかったと思います。もっと時間をかけて、もっと休んで、リハビリや治療をしておけば良かった」
どのようにケガに向き合うか、正解はもちろんない。勝ちたい気持ちは常にあるし、勝つためには練習が必要だということも痛感している。だが、「うろ覚え」な14年前を振り返ったとき、苦い記憶として残っているのは発症した時の対処の仕方。痛みの前に“ある違和感”に気づき、その感覚をしっかりと真正面から受け入れることの重要性を説く。
「違和感が出たけれど、ちょうど優勝争いの最中だったからガツガツ練習して悪化させてしまった。若い時は(患部の)張りを感じても寝たら治っていたりしたから、そんなに気にしていなかったけれど、(不調の)サインはどこかに出ている。自分の身体に敏感になることが大事です。この(小祝の)決断はいいと思うし、絶対に戻ってこられる。この決断がいい方向に行くことを願っています」
元世界ランキング1位で、永久シード(通算30勝)が目前の申ジエ(韓国)も、ケガと付き合いながらゴルフを続けてきたひとり。「シーズン中にやめるのは、本人が一番悔しいと思います。でも、早めの選択をするのはいいこと」と話し、自身の経験を振り返る。
例えば最近では、22年の開幕戦直後に両ヒジの手術を受け、療養とリハビリに時間を費やした。これまでヒジや手首に何度もメスを入れ、「腕だけで5回」を数えるという。最初は「怖い」と不安があったが、いまではその怖さはすっかりなくなった。
術後にツアー復帰して活躍するジエの姿に、ケガで悩む仲間からは“(ゴルフを)やめなきゃいけないと思っていたけれど、ジエさんを見て頑張れるようになった”という言葉も、多くもらった。「手術を選択して治せると、怖いものがなくなると思います。小祝選手は強いから、手術をして戻ってきても、実力を見せられることに疑いはない。逆に勇気をあげられるようにしてほしいです」と言葉を贈る。
そして、あるスター選手を例に挙げる。ゴルフ界の“生きる伝説”こと米通算82勝のタイガー・ウッズ(米国)は、21年に自動車事故を起こす前までに、手首、ヒザ、腰など、20回以上に渡る手術をしていると言い、ジエはタイガーの考え方に共感している。
「ケガをしたら治して戻ればいい。タイガー・ウッズも同じ話をしていると聞きました。治したらいい勝負ができる、といつも思っています。いまだけじゃなくて、どう治したらこれから勝負できる身体を作れるか。スポーツの中でゴルフはシーズンもプレー時間も長い。自分の身体の“音”に注意を払っていくべきだと思います」
ジエはその両ヒジの手術を受けた翌23年、年間2勝を挙げた。今年は5月「ワールドレディスサロンパスカップ」でメジャー優勝を果たし、永久シードにあと1勝と迫っている。小祝の体調は引き続き心配だが、この選択がより強くなるための充電期間となることを願いたい。(文・笠井あかり)