
昨年でツアーから撤退した上田桃子やルーキー・六車日那乃などを輩出する「チーム辻村」を率いるプロコーチの辻村明志氏がスイングの“コツ”を教えてくれた。
◇ ◇ ◇
以前、プロを目指すジュニアの親御さんから、次のような質問を受けました。「プロになるには、どんな練習をしたらいいのでしょうか?」というものです。聞けば1日300~500球を打ち、ランニングばかりか筋トレを取り入れている小学生や中学生もいるようです。ボクも小学生からゴルフを始めましたが、昭和の時代には考えられないような内容に驚かされます。
さて、冒頭のような親御さんの質問に、答えを探すならば、次のように考えます。「まずはスイングのコツを覚えてください」というものです。その答えにほとんどのアマチュアの方々はキョトンとした表情になるかと思います。結論を急ぎます。コツとは“骨”なのです。まずは骨の動きを知ることから始めましょう、という意味です。
実はこれも故・荒川博先生から教わったことですが、物事の要所や急所のことを指す“コツ”とは、“骨”と書くのだそうです。コツ(骨)とは、物事を処置する上での効果的な方法でもあるそうです。固い骨は人間の体の中心であり、体の動きをコントロールするものです。
荒川先生に最初にお会いしたとき、ボクは先生に合氣道の技をかけられ、身動きが取れなくなりました。当時、先生は85歳でご病気もされていましたが、85kgを超す巨漢のボクを、右手1本で簡単に絞めてしまうのです。力でねじ伏せたというわけではなく、そこにコツ、つまり骨が大きく関係しているのです。
合氣道を始めとした武道、格闘技には関節技があります。関節とは骨と骨を結ぶジョイントのことで、これを動かない方向に動かすのが関節技です。わずかな力で相手をねじ伏せられる理由がここにあります。
ゴルフは相手と対峙し、戦う競技ではないので、関節技は必要ありません。大事なのはこの関節に、本来の動きをさせてあげること。スイングのコツは、ここにあります。
ゴルフで大事なのは股関節と肩甲骨なのです。これをほぐしておき、上手に動かすことが上達のポイント、つまりコツです。筋肉はあくまでも、これらの大きな骨を上手に動かすためのもので、スイングの動きは筋肉で行うものではありません。ボディビルダーだからといって、必ずしも飛ぶわけではないのです。同じように大の大人がどんなに力任せに振っても、体の小さな女子プロよりも飛ばない理由も同じです。まず骨、特に股関節と肩甲骨を意識することから始めましょう。
まずはアドレス。筋肉で立つのではなく、骨で立ちましょう。具体的には股関節に、しっかりと上半身を乗せるのです。畑岡奈紗プロは打つ前に、軽くポンポンと2~3度ジャンプする動きをルーティンにしています。この動作で、上半身が股関節にしっかり乗った状態を作っているのです。ボクが選手によくやらせているのが、目をつぶっての素振り。このとき、フィニッシュでバランスが取れていれば、骨で立てている証拠です。
ラウンド当日などは、運転で股関節周りが凝り固まりやすいので、クラブを杖のように体の前に立てて、左腰を回す素振りを行うといいでしょう。股関節がほぐれて、クラブをスムーズに振れるようになります。
肩甲骨は、その可動域がスイングに大きく影響しています。究極のスイングは力ではなく、骨で振ることです。肩甲骨の可動域が小さいと、当然、肩が回らずトップは低くなり、それを筋肉で回そう、高くしようとするのが手打ち、手上げにつながるのです。骨ではなく筋肉で動かすのが、力みの正体。
そこで肩甲骨の可動域を広めるために、必ずゴムチューブをバッグに入れておきましょう。これで朝イチなどにほぐすだけでも効果が全然違うと思います。
具体的な上達の方法ではありませんが、「骨を意識してスイングする」ことが、上達と強くなることの第一歩だと最近、特に感じます。そんな思いから、今回は、“スイングのコツ(骨)”について書かせてもらいました。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子、六車日那乃らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』870号より抜粋し、加筆・修正しています
◇ ◇ ◇
●1位~10位にランクインしたのは? 関連記事【女子プロの”スイング完成度”ランキング 岩井姉妹、小祝さくら、竹田麗央……No.1は一体誰?】をチェック!