
もうそろそろ元に戻してもいいんじゃないかな。先週の国内女子ツアー「ミネベアミツミレディス北海道新聞カップ」で初優勝を4日間大会の完全V&地元北海道で果たした内田ことこを連日、取材していて、ふと思った。
本名は『琴子』で、『ことこ』というのは登録名。2021年6月のプロテストに一発合格し、日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の入会時に登録名をひらがな表記にしたが、本意の変更ではなかった。すでにJLPGAには同姓同名の大先輩がいたからだ。1997年のプロテストにトップ合格した現在52歳のベテランは、15年の1試合を最後にレギュラーツアーには出場していなかったが、21年は5年ぶりに下部のステップ・アップ・ツアーに1試合だけ出場。話はややこしくなった。
JLPGAの同姓同名は過去に『小川真由美』の一例がある。1977年にプロ入りした小川真由美は84年まで37試合に出場。94年8月のプロテストに合格した小川真由美は95年と96年に1試合ずつ出場している。この例では活動時期が大きく異なったため、登録名を変える必要はなかった。だが、今回の同姓同名は同じ試合に出る可能性もある。混乱を避けるための措置としてJLPGAがルーキーの内田琴子に登録名の変更を打診してきたのだ。
ただ、すんなりとひらがな表記に落ち着いたわけではない。JLPGAが提案してきたのは、まさかの『内田琴子2』。同姓同名の多い韓国には「イ・ジョンウン6」ら名前のあとに識別用の数字がつく選手がいるが、日本では例がない。当時の取材で本人は「協会の方に勧められて、最初は『わかりました』だったけど、好きではなかった」とやんわり拒否し、周囲も猛反対。結局、ひらがな表記で落着した。
『ことこ』になって5年目。だが、『琴子』へのこだわりはありそうだ。『琴子』を崩したサインは今も変わらない。ギャラリーにも配られた今大会の決勝ラウンドのペアリング表に掲載された上位選手のコメントの横にも『琴子』バージョンのサインがあった。
で、考えた。もう元に戻してもいいんじゃないのって。“琴子1”は21年を最後に下部ツアーにも出場していない。11月には53歳になる。主戦場はレジェンズツアー。生涯出場数が50試合のレギュラーツアーにもう出ることはないだろう。つまり、『ことこ』でいる必要はないし、JLPGA側も断る理由はない。JLPGA広報も「申請すれば問題なく受理されると思う」と話していた。
「本名に戻せるんですか? 知らなかった。サインは何となく昔のままなんですよね。新しく考えるのも面倒くさいし。『ことこ』は最初イヤだったけど、なんかもう慣れました。周りにも意外と好評なんです。ペアリングや成績をチェックするときに『探しやすいから』って」
読みはそのままで、本名の漢字表記をひらがな表記にして登録した選手には、藤田さいき、三ヶ島かな、森井あやめらがいる。藤田はプロ12年目の16年シーズンから本名の『幸希』をひらがなに変更。その理由を開幕戦の「ダイキンオーキッドレディス」で、こう説明していた。「正しく読んでもらえないことが多い。よく『こうき』とか『ゆき』とかに間違われる。姓名判断で漢字表記よりプロゴルファー向きとも言われたので、変えてみました」。三ヶ島も読みづらいからと『伽奈』をひらがなにした。ささきしょうこも同じ理由で「どうせなら苗字も」と『佐々木笙子』から変更している。
藤田らは自分の意思でひらがなに変えた。例外中の例外だった『琴子』から『ことこ』。「優勝もできたし、今はいいかなって。はい、このままです」。半ば強制の変更だったが、愛着も出てきた。もし、3人目の『内田琴子』が誕生したら、『琴子』に戻して、『ことこ』を継承してもらうのも悪くない。21世紀生まれのツアーメンバーで名前に『子』がつくのは『琴子』だけ。個人的には“絶滅危惧種”となった『子』の復活をちょっぴり願っている。(文・臼杵孝志)