第76話 嫌われ者をあえて買う

株の神様の声が聞こえるというTさん。投資のコツや、ロボット、AI、自動運転等の成長分野に本当に投資すべきか等、時折神様に相談します。今日は、秋の夜長に月見をしながら、投資談義をしています。

神様: 株式投資の世界では、市場からの嫌われ者へあえて投資する、という手法があります。ご存じですよね?

T: はい、 バリュー投資 と呼ばれ、現在の株価が本来的な企業価値に比べて安いと考えられる会社に投資をする。その後、本質的な価値にまで株価が上昇したときに売却し、売却益を狙う方法ですね。

神様: そう、株価が本質的な価値より下がっているという逆境だからこそ、あえて買うということです。いわば「逆風にある」会社や「嫌われ者」の会社に投資することになります。あなたは、今、「嫌われ者」と聞くと、どんな業種や会社を思いつきますか?

T: そうですねー、「健康に悪いもの」や「太るもの」は嫌われますよね。例えば、“行列ができるドーナツ店”で有名になった米国発のドーナツ・チェーンが、最近は客足が減り、店舗の閉店が相次いでいると聞きました。

神様: 確かに、10年ほど前に日本に初出店した際には、国内の大手チェーンの独占だったドーナツ市場に対して、米国流の「甘くて、ふわっ、とろり」とした食感が新しく、瞬く間にブームとなりましたが、この10年で消費者の嗜好も変化したようですね。

T: コンビニでもドーナツを、大ヒット商品へと急速に成長したコーヒーと一緒に売り込もうといわんばかりに、一昨年くらいに力を入れはじめ、発売当初は目新しさもあり売上も好調だったようですが、現在は泣かず飛ばずのようですね。

神様: 一方で、ダイエットは着実に人気を集めていますよね。

T: 「結果にコミットする」のTVコマーシャルで話題の、完全個室のプライベートジムは非常にセンセーショナルでしたよね。この会社の肉体改造は、マンツーマントレーニングのほか、糖質制限による食事管理という2つの要素が売りです。このチェーンに限らず、糖質制限のダイエット法は、テレビや雑誌などのメディアで数多く紹介され、ブームとなっていますから、ますますドーナツは「嫌われ者」ですよね。

神様: そうですね、普通に考えると、「嫌われ者」の「ドーナツ」の会社に投資せず、人気の「ダイエット」の会社に投資するのが常道ですよね。

T: 恥ずかしながら、私はそう考えてしまいます。けれども神様は逆だと仰せになるのですよね?

神様: そう単純ではありませんよ(笑)。時代の流れで、人気者から嫌われ者になった会社が、また人気者になる可能性があるから、嫌われ者で株価が安いうちに買っておくというくらいの浅い考えでは失敗します。

T: (顔を赤らめながら)すみません、浅い考えでした。

神様: 例えば、コンビニに行けば、低糖質のおやつがたくさん出ています。ハムやベーコンでさえ低糖質商品があります。ファミリーレストランでは、低糖質メニューも取り揃えられています。米国のドーナツ・チェーンが手掛けるかどうかわかりませんが、低糖質のドーナツや、さらには低糖質の食材を組み合わせたファーストフードを次々と開発するような会社であれば、また浮上する可能性がありますよね。

T: 今は「嫌われ者」で株価が下がっている中でも、マーケティングや商品開発で次の一手を打ち始めている会社をよく吟味して投資しなさいと…

神様: その通りです。それが、まさに「バリュー投資」で、 本来価値を取り戻せる会社の見極めがポイント です。

Tさんは、ドーナツのように丸く綺麗な月を見ながら、他にも「嫌われ者」の会社を探し、その会社が今どのような改革に取り組んでいるのか、よく調べてみようと思いました。

(この項おわり。次回11/15「猫の手も借りたい!」を掲載予定)

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