逆転され、再逆転 松山英樹を10勝目に導いたプラス思考【舩越園子コラム】

PGAツアーのプレーオフ初戦「フェデックス・セントジュード選手権」最終日。松山英樹の勝利への道は、大方の予想に反して厳しい戦いになった。
2位に5打差の単独首位で最終日を迎えた松山が、後半に次々にスコアを落とし、首位から陥落したことは予想外の展開だった。しかし、そこから巻き返し、再逆転して勝利をさらった彼の勝ち方は圧巻だった。

「予想外」の始まりは、短いパーパットを外した12番のボギーからだった。さらに14番で池に落としてボギーを喫すると、15番はラフに苦しんだ末に4オン2パットでダブルボギー。4ホールで4つスコアを落とした。

14番(パー3)は同組だったニック・ダンラップ(米国)の動きに気を取られ、「(自分の)状態が良くないのに、つられて、ミスした」。15番は「その影響。ラフに入れちゃって」と苦笑しながら振り返った。

流れが悪くなり始めたとき、集中力が低下して、「ついつい」というミスをおかしてしまうことは、どんなトッププレーヤーにも、ときとして起こることではある。

だが、そんな流れに陥り、一時はビクトル・ホブラン(ノルウェー)に逆転されて2位タイに後退した松山が、そこから先はミスをおかさず、上がり2ホールを連続バーディで締めくくって再逆転できた要因は何だったのか。

それは松山がどこまでもプラス思考を抱き続けていたからだと私は思う。

15番でダブルボギーを喫したときでさえ、松山は「まだ残り3ホールある。切り替えよう」と自身に言い聞かせ、前を向き続けたという。

パー5の16番でバーディパットを沈められず、パーどまりとなったときも「17番、18番はフェアウェイに置ければ、バーディチャンスに付けられるかな」とプラス思考だった。しかし、17番はフェアウェイをとらえられず、ラフにつかまった。それでも松山は「厳しいとは思ったけど、(8メートルの)このパットを入れさえすればと思って、集中して打った」。

17番のバーディパットは、彼がポジティブな姿勢のまま、勝負に出た一打だった。「今週(パットが)入っている流れで打てたと思う」。

今週はいい感じで打てているし、よく入ってくれているのだから、このパットもきっと決められるはずだ――そう考えた松山が土壇場でも抱き続けたプラス思考が、勝負のパットをカップに沈めたのではないだろうか。

18番パー5ではセカンドショットをピン1.5メートルにつけた。ダメ押しのバーディパットを沈めて、逆転からの再逆転劇が完結。ターミネーターのような執拗(しつよう)なゴルフで、キャリアの節目となる通算10勝目を達成した。

優勝会見では、パリ五輪から米国へ戻る際の経由地ロンドンで窃盗事件に遭いながら、どうやって気持ちを切り替え、勝利することができたのかという質問が米メディアから投げかけられた。

「それ(窃盗事件)があったから勝てたんじゃないかなというプラス思考です。それがあったから、勝てた」

臨時でバッグを担いだ田淵大賀キャディは「声をかけたときは(彼は)日本にいた。大賀しか思いつかなかった。予定を変更して来てくれた。一生懸命やってくれた」。謙虚に田淵キャディへ感謝していた松山の姿が印象的だった。

そして、パスポートを盗まれて日本に戻ったエースの早藤将太キャディは、パスポートとビザをスピーディに発行してもらった様子で、松山いわく、「もう(来週の試合会場の)デンバーに入ってます」。

早藤キャディの早々の復帰は、松山にとって何よりの朗報である。エースキャディ抜きでプレーオフシリーズを戦うピンチからも抜け出すことができて、これも松山にとってはピンチからチャンスへの大逆転となる。

プラス思考、ポジティブシンキングが、松山に想像以上のパワーと幸運をもたらし続けている。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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