第372話 2023年はマイナス成長へ 世界の半導体市場動向を見る

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、下町の甘味処で抹茶を飲みながら投資談義を行っています。


神様:IMF(国際通貨基金)が10月に公表した最新の世界経済の成長率見通しによると、日本の2023年の成長率見通しは0.6ポイント上方修正され、2.0%となりました。

T:上方修正の要因は何でしょうか?

神様:ペントアップ需要の顕在化やインバウンド消費の持ち直し、さらに半導体不足の解消による自動車生産の回復などが貢献するだろうと指摘されています。

T:ペントアップ需要とは、聞きなれないのですが何でしょうか?

神様:ペントアップ(pent-up)需要とは、景気後退などで一時的に控えられていた消費・購買行動が、景気回復などをきっかけとして一気に活発になることを言います。別名「繰越需要」とも言いますよ。

T:なるほど。新型コロナウイルスによるパンデミックからの回復も、ペントアップ需要を顕在化させるきっかけと言えそうですね。ところで、半導体不足は解消したとのことで、自動車生産などにとっては追い風ですね。

神様:WSTS(世界半導体市場統計)によれば、2022年の世界の半導体市場は前年比で3.3%増となりました。しかし、2023年は前年比で10.3%減と、2019年以来4年ぶりのマイナス成長となりました。コロナ禍から続いていたPCやスマートフォンなどの「在宅特需」が一巡し、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化、世界的なインフレなどが個人消費や企業の設備投資等に影響したことで半導体需要が失速したと見られます。

T:イスラエルとパレスチナの問題など、中東情勢も不安定になっています。2024年は世界が安定して、経済の活発化、景気回復に向かってほしいですね。

神様:おっしゃる通りです。現在のところ、2024年は半導体市場も再び拡大する予測です。ところで、Tさんは「ムーアの法則」をご存知ですか?

T:IT業界や製造業界では有名な話ですね。米Intel社の共同設立者であるゴードン・ムーア氏が1965年、「18カ月ごとにトランジスタの集積密度が倍増する」と提唱したことから生まれた法則・経験則です。半導体技術の進歩がいかに早いかを言い表していますね。

神様:その通りです。しかし現在、このムーアの法則が限界に近づいていると言われています。2017年には、米NVIDIA社のジェンスン・フアンCEOが「ムーアの法則は終わった」と発言したことが話題になりました。半導体の微細化による高集積化は、物理的に限界に近づきつつあります

T:それでは、新しい半導体技術の開発は進んでいるのですか?

神様:例えば、日本では量子効果を応用した次世代半導体デバイスの研究が進められています。しかし、乗り越えなければならない壁がいくつもあり、すぐに実用化されるものではありません。近い将来を見た場合の注目としては、生成AI市場ですね。

T:「ChatGPT」ですね。

神様:生成AIは2022年後半に「ChatGPT」が発表されて以降、急速に広がっています。今後、生成AIサーバの需要は、3~4年で数倍に伸びるとの見方があります。2030年の世界の生成AI市場は、2022年比で実に23倍にまで成長するとの予測もあるのです。

T:しかし、生成AIが半導体とどのように関係があるのでしょうか?

神様:生成AIにはGPUと呼ばれる画像演算装置が多く必要とされます。また、HBM(ハイ・バンドワイド・メモリ)と呼ばれる高性能なメモリも生成AIを支えている重要な部材です。

T:これらのハイスペックな部材が、今後の生成AI市場の急激な伸びに平行して需要が伸びていくということですね。

神様:AIサーバ用向けなどでは、半導体の小型化などで活躍している「3次元パッケージ技術」を活用する傾向です。このパッケージでは、ウエハの薄化工程のひとつであるバックグラインド(裏面研削)工程が重要です。半導体部材は、日本のメーカーが強みを発揮できる分野です。世界でこれらの部材を手掛けるチャンスに期待しましょう。

(この項終わり。次回11/8掲載予定)

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