第365話 コロナ禍後に加速する印刷紙の需要減 デジタル印刷は市場拡大へ

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、海の見えるカフェでコーヒーを飲みながら投資談義を行っています。


T:9月1日、北海道新聞社は9月末で夕刊を休刊することを発表しました。新聞は各社で発行部数の減少が続いていますが、今後もこのような動きが増えるのでしょうか。

神様:世界的なデジタル化の進展を考えると”時代の流れ”と言うことはできるでしょう。情報収集手段の多様化に伴う新聞離れや、広告がインターネットへシフトしていることも見逃せません。今回の場合は、新聞紙の原材料費の高騰や輸送コストの上昇が大きなきっかけとなったようです。新聞業界全体で見ると、日本新聞協会が2022年10月に調査した協会加盟の日刊紙の発行部数は3084万6631部でした。これは前年と比べると218万504部の減少となりました。

T:1年間で200万部以上も減っているのですか。今後もデジタル化が進んでいけば、紙の発行部数はさらに減少していくのでしょうね。

神様:さて、印刷業界や製紙業界は今、大きな変化を迎えています。今日は「印刷」に注目してみましょう。

T:新聞に限らず、紙の需要も減っているのでしょうね。

神様:おっしゃる通り、印刷媒体としての紙の需要は減少しています。日本製紙連合会によると、印刷・情報用紙の国内需要は、2005年の1,199万トンがピークでした。その後は今日まで、漸減傾向をたどっています。

T:グラフを見ると、コロナ禍の2020年から一段と落ち込んでいますね。

神様:コロナ禍の影響のほか、少子高齢化や人口の減少などの構造的な要因も大きいと言えます。また、デジタル化の加速も要因のひとつです。Tさんは「印刷」の仕組みをご存知ですか?

T:仕組みと言われますと、凸版印刷などのことでしょうか。イマイチよく理解していません。

神様:印刷は長らく、物理的な「版」を作り、版にインクを付着させて紙などに刷って行われてきました。インクを版の凸部に付着させる「凸版方式」のほか、新聞などでは「平版印刷」と言われる印刷方法が取られています。平版印刷はオフセット印刷とも呼ばれ、現在はこの方法が主流となっています。

T:デジタル化の加速で、これらの印刷方法も変化がありそうですね。

神様:その通りです。近年では「デジタル印刷」の需要が増加しています。デジタル印刷とは、物理的な版を必要としない印刷方法であり、オンデマンド印刷とも呼ばれます。デジタルデータがあればプリントすることができ、相対的にコストを抑えることもできます。ただし印刷部数は版を使った印刷に比べて少数で、大量印刷には向きません。

T:オフィスや家庭にあるプリンターと同じような仕組みと思えばわかりやすいですか?

神様:そうですね。最近ではバブルジェット方式インクジェットプリンターの性能が向上し、屋内外看板、ウィンドウサインやインテリアなど用途を劇的に拡大させていることも強みです。例えば、大手アパレルメーカーの一角では、すでに衣類のデザインにデジタル印刷を導入しています。アナログ印刷に比べ、大量の初期ロットが不要で、追加生産にも対応しやすいことがメリットとなっています。そのため、SPA(製造小売業)型のアパレルに適しているとも言えるでしょう。

T:なるほど。大量生産・大量廃棄ではなく、必要なものを必要なだけ生産するわけですね。これからの時代に合った環境に配慮した技術とも言えますね。

神様:一方で、印刷業界、特に中小企業の現場では、まだまだオフセット印刷など、版を使った印刷による収益が大きい状況です。その上、事業者の高齢化により後継者がいないまま廃業するなど、全体的な事業規模は縮小傾向をたどっています。コロナ禍を経て、印刷業界全体がどのように舵取りをしていくかが問われています。

T:紙という、デジタルとはある意味で真逆な媒体を扱ってきたわけですから、難しい対応を迫られていると思います。これまでの収益構造を見直し、新たな付加価値を生み出すことができるかも問われそうですね。デジタル印刷の市場規模が拡大していくことで、新たなビジネスが生まれることを期待したいと思います。

(この項終わり。次回9/20掲載予定)

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