第358話 6月日銀短観 コロナ禍乗り越えたホテル業界が大幅な回復

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、空港ラウンジでコーヒーを飲みながら投資談義を行っています。


T:最近の空港は、平日休日に関係なく混雑していますね。訪日外国人観光客の姿も目立ちます。改めて、コロナ禍から着実に回復していることを実感します。

神様:とても良いことです。7月3日に今年6月の日銀短観が公表されました。ところで「日銀短観」とは何か、覚えていますか?

T:はい。正式名称を「全国企業短期経済観測調査」と言い、日銀が各企業において自社の業績や経済環境の現状、先行きについてどう見ているかを調査するものです。景況感について企業に直接アンケートを取るため、現場のリアルな実感を確認することができます。

神様:その通りです。今回の短観では、全体的に景況感が改善していることがわかりました。業界ごとに見て改善幅の大きさで注目されたのが「宿泊・飲食サービス」業界です。最近の「宿泊・飲食サービス」業界の大企業の業況判断DIは36でした。今年3月調査では0でしたので、プラス36という大きな上昇幅となりました。

T:業況判断DIは、景気が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いて算出されるのでしたね。

神様:はい。今回の結果は2004年3月の調査開始以来の最高水準となり、改善幅も最大となりました。9月の「先行き」については「33」となり、6月の「36」より多少低下していますが、引き続き高水準を維持していると言えるでしょう。

T:改善の主な要因としては人出の回復があると思いますが、その他にも何かありますか?

神様:もちろん、コロナ禍の行動制限の解除やインバウンド需要の回復が主な要因です。その他では、これまでコロナ禍で業績の苦戦を強いられてきたホテル業界が挙げられます。新しいホテルの建設予定が滞っていましたが、これにより既存の施設の高稼働率につながっているようです。

T:なるほど。私も先日出張に行ったとき、出張先が地方の観光地だったこともあり、価格の安いホテルはどこも満室でした。高い価格帯のホテルも混雑していたので、ホテルの景況感を直に感じることができました。

神様:まさにその通りです。宿泊施設タイプ別の客室稼働率の推移を見ると、コロナ禍からの回復の早さに差があることがわかります。シティホテルやビジネスホテルは比較的早い回復が見られますが、旅館やリゾートホテルは鈍い動きとなっています。

T:旅行以外でも利用するホテルの方が回復が早いということですね。しかし、2020年の緊急事態宣言の後から、国による観光支援は継続的に行われてきました。最初は「Go To トラベル」でした。次に行われたのが同一県内の旅行に対する「県民割」、そして今は「全国旅行支援」が行われています。こういった支援策もあり、少しずつ回復してきたと言えると思います。旅館やリゾートホテルなどの今後の動向が楽しみです。

神様:今後は新規のホテル建設も進みます。客室数の増加や、全国旅行支援の影響もあり、回復の早い宿泊施設タイプから、ホテル需要回復がより鮮明に表れるでしょう。さらに、インバウンドの本格回復によって、宿泊施設全体の需要の高まりが期待されます。

T:先日、宿泊・飲食業で人手不足が深刻だという話(第350話 ”脱コロナ”宿泊・飲食業で人手不足 アルバイト・パート需要高まる)をしたばかりです。これから夏休みを迎えるに当たり、人手不足が回復の足を引っ張らないかが心配です。

神様:アルバイト・パート採用の時給を上げても人が集まらないところもあると聞きます。スタッフの採用と業務の生産性向上・効率化は引き続き大きなテーマです。業界全体でどのように対応していくのかにも注目しましょう。

(この項終わり。次回7/26掲載予定)

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