リヴァプールへの加入が決まった22歳のハンガリー代表MFドミニク・ソボスライは、チーム再建のキープレーヤーになることができるだろうか?
2022-23シーズン、リヴァプールは早々に優勝争いから脱落すると、最終盤に11試合負けなしと盛り返し5位まで浮上したものの、7シーズンぶりにチャンピオンズリーグ(CL)出場権を逃すことになった。リヴァプールは新シーズン、2015年からチームを率いるユルゲン・クロップ監督のもと、4年ぶりのリーグ制覇を目指して巻き返しを図ることとなる。そんな彼らの命運を握りそうなのが、ライプツィヒから移籍金7000万ユーロ(約110億円)で加入が決まったハンガリー代表MFソボスライだ。
なぜリヴァプールは大枚を叩いてハンガリー代表の攻撃的MFを獲得したのか? その理由を探るべく、彼の能力を分析してみよう。
ソボスライは、15歳にして母国ハンガリーを離れオーストリアの名門ザルツブルクに入団すると、16歳にして同クラブのセカンドチームでプロデビューを果たした。そしてトップチームでも活躍するようになり、2019-20シーズンにはCLのグループステージにて、後の所属先となるリヴァプールとも対戦した。
2試合とも好ゲームを演じながらリヴァプールの前に屈したザルツブルクだが、当時ソボスライがインパクトを残していたのは間違いない。クロップ監督も当時を振り返り「あの2試合を見た人は、彼が当時から興味深い有望株だったことに気づいたはずだ。まだ10代だったと思うが(1度目の対戦時は18歳)、あれから大幅に成長した。ライプツィヒでも非常に活躍していたしね」と語っているのだ。無論、その時により大きなインパクトを残したのは、2020年1月にリヴァプールに加入した日本代表FW南野拓実(現:モナコ)だったのだが…。
いずれにせよ、ソボスライの最大の魅力はユーティリティー性だろう。2022-23シーズンは、ライプツィヒで4-2-3-1や4-4-2の右サイドを任されることが多かったが、彼は決して生粋のウイング(WG)というタイプではない。左サイドで起用されることもあるし、ハンガリー代表では3-4-2-1のダブルシャドー気味で使われることが多い。トップ下やインサイドハーフを担当することもあり、この万能性が彼の特長の1つなのだ。
それを可能にしているのが優れた足技だ。彼は狭い場所でも素早い足さばきでボールを操り敵を抜き去り、的確なパスを送ることができるのだ。元プロ選手だった父から英才教育を受けたソボスライは「子供の頃にレゴ(ブロック)などで遊んだ記憶がない。サッカーにしか興味がなかった」と明かしたことがある。ソボスライは父が立ち上げたユースチームで鍛えられ、チーム練習が終わったあとは父との個別練習で足技を磨き続けたのだ。
そんな万能型アタッカーは、2022-23シーズンのブンデスリーガで6得点をマークしたほか、リーグ9位タイの8アシストを記録した。彼のスタッツを詳しく見ると、チームメイトのシュートにつながるパスは71本でリーグ4位。さらにデータサイト『FBref』によると「90分毎の直接シュートを生み出すプレー」(パス、ドリブル、ファウル獲得など)はリーグ最高の「5.52」となっている。1試合のうちに5本以上も味方のシュートを演出していたのである。
そして、生粋のWGではないが、ドリブルもお手の物でドリブル突破回数は53回でリーグ10位。ボール運びの回数に関しても、DFを除けばトップ5に名を連ねるのだ。そして豊富な運動量も魅力で、2022-23シーズンはスプリント数がリーグ7位だった。そのためWGとしての能力も申し分ないことが分かる。
当然、特徴は攻撃面だけではない。彼は高い位置からのプレスでもチームに貢献できる選手なのだ。データサイト『Opta』によるとソボスライは敵陣で積極的にボールを奪いにいき、2022-23シーズンのブンデスリーガではファイナルサードでボールを奪った回数が39回を記録している。これはチーム最多であり、リーグ全体で見ても6位だったという。恐らく、この献身的な姿勢もクロップ監督が獲得に乗り出した理由の1つなのだろう。
新天地のリヴァプールではクラブの英雄である元イングランド代表MFスティーヴン・ジェラード氏が身に着けていた背番号「8」を託されるわけだが、その背番号に恥じないプレーも見せてくれそうだ。というのも、ソボスライはジェラードに負けないほどの“キャノン砲”を持ち合わせている。そして優秀なセットプレーのキッカーであり、類稀なシュートレンジを持つ選手なのだ。
昨年9月のドルトムント戦では25mほどの位置から右足を一閃。ゴール右上隅に強烈なロングシュートを叩き込んでいる。それだけではなく、直接FKからもゴールネットを揺らすことができる。ブンデスリーガでの初ゴールを決めた2021年8月のシュトゥットガルト戦では、前半のうちにボックス角から先制弾を決めると、後半には左サイドの位置からFKを直接ゴールに決めて見せた。彼が蹴った鋭いクロス性のボールは、走り込んできた選手たちの鼻先をかすめるようにしてそのままゴールに吸い込まれたのだ。
今年1月にもシュトゥットガルトを相手に直接FKを決めて見せた。ゴールから30mほどの位置で右足を振りぬくと、強烈なシュートは鋭く曲がりながら下に落ち、GKの前でワンバウンド。懸命に伸ばした手をかすめてゴールに突き刺さった。球速もありながら激しく曲がる、野球でいうと“パワーカーブ”のようなシュートを決めて見せたのだ。
昨年11月からキャプテンを任されているハンガリー代表でも、今年3月のブルガリア戦で完璧な直接FKを決めた。約25mの位置から縦回転の落ちるFKをゴール右隅に叩き込んだのだ。全ては練習の賜物である。彼は10代の頃に毎日200本近くFKを練習し続けたという。そして16歳にしてU-21ハンガリー代表に選ばれたときも、自分より年上の先輩選手たちを差し置いて直接FKを蹴っていたという。
WGのテクニックとクロップ好みの献身的なプレス、そしてジェラードを彷彿とさせる右足のロングシュート。エナジードリンクがスポンサーを務めるザルツブルクやライプツィヒを経てリヴァプールに加入したソボスライは、単なる“ウイング(翼)”ではないようだ!
(記事/Footmedia)