移籍金は英国人最高額の約190億円に!?…今夏の“人気銘柄”デクラン・ライスとは何者か

 アーセナルが、ウェストハム所属のイングランド代表MFデクラン・ライスの獲得に近づいている。
 
 中盤の強化を図るアーセナルは、移籍金1億500万ポンド(約190億円)でライスを獲得することが濃厚になったようだ。この額は2019年にコートジボワール代表FWニコラ・ペペの獲得に費やした7200万ポンド(当時レートで約94億円)を大きく上回り、アーセナルのクラブ史上最高額の移籍金となる。それどころか、今年1月にチェルシーがアルゼンチン代表MFエンソ・フェルナンデスを獲得する際に支払った1億680万ポンド(当時レートで約170億円)という英国クラブの移籍金記録に迫る額なのだ。
 
 “3冠王者”マンチェスター・Cも一度は争奪戦に参加したというライス。ウェストハムとの現行契約は残り1年にもかかわらず、なぜ24歳のイングランド代表MFにはこれほどの高値が付くのか? その理由を見てみよう。

[写真]=Getty Images
 
 ライスは14歳の時にチェルシーの下部組織を退団すると、その後ウェストハムに入団しトップチームまで上り詰めた。2016-17シーズンのプレミアリーグ最終節で弱冠18歳にしてデビューを果たすと、翌シーズンの途中から定位置を確保。当初はセンターバック(CB)としてプレーすることが多かったが、2018-19シーズンに中盤(守備的MF)の主力に定着すると、それ以降は毎シーズンのようにフル稼働してきた。

 
 当初、代表チームは祖父母の出身地であるアイルランドを選択していたが、2019年に自身が生まれ育ったイングランドに変更。2021年に開催されたEURO 2020では全7試合に出場しイングランドの準優勝に大きく貢献した。昨年のFIFAワールドカップカタール2022でも、ベスト8に進出したイングランド代表において、全5試合でスタメンに名を連ねている。
 
 24歳にして既にイングランド代表として43キャップを持つライスは、それだけでも既に高値がつきそうだが、イギリスメディア『The Athletic』によるとプレミアリーグでの圧倒的な実績が高額の移籍金の理由だという。昨シーズンのプレミアリーグでは1試合を除き全試合に出場したライス。彼はコロナ禍で開催された2019-20シーズンには全試合にフル出場するなど、2018-19シーズンから5シーズン連続で80パーセント以上の出場時間を誇るという。
 
 ここ5シーズンで欠場したリーグ戦は13試合だけ。5シーズンで合計「15753分」もピッチに立っており、これは同期間における中盤の選手としてはリーグ最多となっている。それどころか、他のフィールドプレーヤーを含めても、ライス以上の出場時間を誇るのは、エヴァートン所属のイングランド代表DFジェームス・ターコウスキー(16274分)だけなのだ。怪我が少なくフル稼働できる体力は、間違いなくライスの魅力の1つだろう。

 
 そして、ピッチに立てば185㎝の恵まれた体躯と抜群の運動能力で中盤を支配する。彼は世界屈指のボール回収率を誇るのだ。昨シーズンのプレミアリーグでは、マンチェスター・Cの3冠達成の立役者であるスペイン代表MFロドリを抑え、リーグ最多となる334回(1試合平均9.2回)のボール奪取を記録。インターセプト数もブライトンのエクアドル代表MFモイセス・カイセドなどを抑え、リーグ最多の63回を数えている。
 
 その一方で、タックルを試みた回数はリーグで32位に留まった。抜群の走力で体を寄せ長い脚でボールを奪い取ってしまうので、そもそもタックルを繰り出す必要がないのだ。もちろん、足を出したときは確実にボールを奪う。データサイト『Whoscored.com』によると、タックルを試みた回数が多い32名のなかで、その成功率は1位(81%)を記録しているのだ。
 
 そのため、ドリブルで突破されることが少ない。昨シーズンはリーグ戦で20回しかドリブルで抜かれておらず、90分毎で「0.6回」の数字となっている。データサイト『Opta』によると、これはカイセド(0.8回)、ロドリ(0.9回)、ニューカッスルのブラジル代表MFブルーノ・ギマランイス(0.9回)、アーセナルのガーナ代表MFトーマス・パルティ(1.0回)、マンチェスター・Uのブラジル代表MFカゼミーロ(2.1回)といった並み居る守備的MFよりも少ないのだ。

 
 相手チームにカウンターを仕掛けられた際、ライスがボール保持者に追いつき、そのボールを奪い取るシーンを何度見てきたことか。今年4月にアーセナルを対戦した際には、後方からのビルドアップを試みる相手チームに積極的なプレスを敢行。アーセナルの中盤の底に位置するトーマスからボールを奪い、一気に仕掛けて仲間のPK獲得に繋げてみせた。
 
 このように、彼はリーグ随一のボール奪取能力に加えて、攻撃能力にも秀でたMFなのだ。『Opta』によると、ライスは昨季のプレミアリーグで攻撃関与数がチーム最多だったという。それもあって昨季は自己最多となるリーグ戦4ゴールをマークした。ちなみに、彼の記念すべきプレミアリーグ初ゴールは、2019年1月に行われたアーセナル戦(1-0○)だった。
 

 
 昨季はパス本数もチーム最多の2083本を記録した。これは2位のブラジル代表MFルーカス・パケタ(1125本)の倍近い本数となっている。それでいてボールを失う機会は極めて少ない。昨季のプレミアリーグにおけるボールロスト率は14.5パーセントで、900分以上に出場にした守備的MF/セントラルMFの中でトップ10(最少から数え)に名を連ねているのだ。
 
 少し気になるのは縦パスよりも横パスが多いことかもしれない。データサイト『FBref』によると、昨季のプレミアリーグにおけるパスの総距離ランキングで、ライスは16位に付けているのだが、前方に進んだ距離に換算すると48位まで下がってしまう。イングランドでは横パスの多い選手はあまり好かれないが、無論そこはチーム事情の影響が大きいため、前方にボールを受けられる選手がいればこの数値も変わるはずだ。
 
『The Athletic』によるとサイドチェンジもライスの魅力だという。昨季のプレミアリーグで900分以上に出場した守備的MF/セントラルMFのうち、繰り出したパスの中でサイドチェンジを試みた割合はポルトガル代表MFマテウス・ヌネス(ウルヴァーハンプトン)、同MFジョアン・パリーニャ(フルアム)に次いで3番目だったという。イングランド代表FWブカヨ・サカやブラジル代表FWガブリエウ・マルティネッリら強力なウイング(WG)を揃えるアーセナルに加われば、彼のサイドチェンジが多くの好機を生み出すはずだ。

 
 そして最後に、ライスの最大の魅力となるのがボール運びだろう。アーセナルの英雄パトリック・ヴィエラや元マンチェスター・CのMFヤヤ・トゥーレなどを手本にしてきたというライスは、ボール奪取後に自慢の運動能力を駆使した長距離の持ち運びで、チャンスを作り出すことができるのだ。データサイト『FBref』によると、昨季ボールを運んだ回数はリーグ12位。中盤の選手に限るとロドリ、ピエール・エミール・ホイビュルク(トッテナム)、カイセドに次いで4位。そして運んだ総距離を見ると中盤の選手としては2位、リーグ全体で見ても3位まで浮上するのだ。
 
 さらに、ファイナルサードに侵入するボール運びの回数を見ると、サカやイングランド代表FWジャック・グリーリッシュ(マンチェスター・C)、日本代表FW三笘薫(ブライトン)、ベルギー代表MFケヴィン・デ・ブライネ(マンチェスター・C)といったリーグ屈指のWGや攻撃的MFが名を連ねる中で、ライスは8位につけているのだ。
 
 そんなライスの魅力が凝縮されたプレーといえば、今年4月に行われたヨーロッパカンファレンスリーグ(ECL)準々決勝のヘント戦だろう。ライスは自陣でボールを奪うと、そこから一人で60m近くボールを運んで敵陣ボックス内に侵入。最後は冷静に左足でゴール隅に流し込んだのである。
 

 
 ボールを奪い、的確なパスを送り、ボールを運んでフィニッシュもこなす。それが移籍金190億円と言われるデクラン・ライスなのだ!

(記事/Footmedia)

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