
アーセナルに所属するウクライナ代表MFオレクサンドル・ジンチェンコが、母国の惨状を目の当たりにした心境を明かした。13日、イギリス紙『イブニング・スタンダード』が伝えている。
昨年2月から行われているロシアのウクライナ侵攻以降、積極的にメッセージの発信などを行なっているジンチェンコが、数週間前に侵攻後初めて帰国。すでにイングランドへと戻っている同選手はミサイル攻撃を受けた学校などを訪れたことを明かし、被害の大きさや実際に目で見て感じた現状について次のように語った。
「破壊された建物などを携帯電話ではなく、実際に自分の目で見ると、全く別の話になる。赤ちゃんや子どもたちと一緒に寝ようとしている時に突然午前1時から5時までサイレンが鳴り続けることを想像してほしい。起きて、防空壕へと身を隠さなければならない。どこに爆弾やロケットが落ちるかわからないからね」
「あなたが子どもで誰かがマスクをして盗みに入ってくることを想像してほしい。こんなことだけではなく、奴らは銃を持ってやって来て、もっともっと怖いことだけをして去っていったりもする。これらは子どもたちから聞いた本当の話だ。正直ショックだった。このようなことは映画でも見ることはない。子どもたちは嘘をつかない。ただ本当のことを話しているだけだ」
ジンチェンコは、今年8月5日にチェルシーの本拠地『スタンフォード・ブリッジ』で開催されるウクライナ支援を目的としたチャリティーマッチ『Game4Ukraine』のアンバサダーに元ウクライナ代表FWアンドリー・シェフチェンコ氏と共に就任。この特別試合で集まった資金はミサイル攻撃を受けたチェルニーヒウ州の学校再建のために寄付されることが決まっている。
このように積極的に支援活動を行っているジンチェンコは真の英雄たちは最前線にいることを理解しながら、「現時点では僕がそこに行くよりも、ここからもっと母国の人たちを助けることができると思う」とできる限りのことをしていることを強調した。
「しかし、約束する。今でも本当はそこにいたいと思っている。なぜなら、先週行った時、そこが僕の故郷だとは思えなかった。ただ現地に行ってそこにいたかった。それだけなんだ」
さらに、先日にはノヴァ・カホウカ市にあるダムが破壊されたことで大きな被害が発生しているなか、「数カ月前に生まれたばかりの2人の小さな赤ちゃんを抱えたとある女性の怖い話を聞いた」と実際にあったという恐ろしい話も明かした。
「彼女は2人の赤ちゃんと一緒に屋上に逃げて、最後の石にしがみついて生き残ろうとしていた。でも、残念ながら、彼女も子どもたちも生き残ることができなかった。これらの話をインターネットではなく、実際に聞くと、これは何を達成するためのものなのかと考えてしまう。毎日怒りが込み上げてくる。彼らは何をしているのか、何を達成するためにやっているのかを本当に知りたい」
また、侵攻が続いているなか、今シーズンは加入したアーセナルで好パフォーマンスを見せたジンチェンコは「何が起きているのか実際にはわからなかったので、なるべく頭には入れないようにしていた。正直信じられないことだからね」と語りつつ、自身にとってサッカーの重要性も口にした。
「だからこそ、今日のサッカーは一緒に団結して、メッセージを発信して、楽しむことができるとても強力な機会だと思う。侵攻以来、僕の頭の中は混乱しているが、家族ともよく話をしているし、続けていくしかない。サッカーは僕の人生そのもので、ピッチに立てばすべてを忘れることができる」
そして、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領については「彼のやっていることは信じられないほど素晴らしい」と賛辞を送ったジンチェンコは、引退後にはウクライナに住むつもりであることを明かしながら、戦いが終結することを願った。
「彼らは絶対に止まらない。全く疲れてもいないようだった。このようなエネルギー、そしてこのような人たちがいれば、明るい未来があると信じている。僕はただ何かいいことをしたいだけだ。子どもたちが大きくなった時に『お父さん、この国で戦争があった時は何をしたの? どれだけの人を助けたの?』と聞かれるだろう」
「その時に、僕は子どもたちの目を見て『僕とお母さんは全力を尽くしたんだよ』と言いたい。それが僕の頭の中にあることだ。選択肢は2つある。諦めるか、できる限り助けようとするかだ。僕は国民とウクライナ人であることをとても誇りに思っている」