
今シーズンのプレミアリーグも最終盤を迎えた。各チーム残り3、4試合となり、徐々にチームの命運が見えてきた。
残留争いでは最下位のサウサンプトンが崖っぷちに立たされている。今週末のフルアム戦に勝てなければ11シーズンぶりの2部生活が待っているのだ。彼らが残留に望みをつなぐためには土曜日の試合に勝つほかない。
一方、優勝争いも佳境を迎えた。アーセナルとマンチェスター・Cによる熾烈な鍔迫り合いも最終局面に入っているのだ。今季ずっと首位を走ってきたアーセナルは、終盤にきてマンチェスター・Cに抜かれることに。現在は、マンチェスター・C(残り4試合)が勝ち点82で首位に立っており、アーセナル(残り3試合)が彼らを1ポイント差で追う展開だ。3連覇を目指すマンチェスター・Cは「マジック3」。アーセナルの結果に関係なく、残り4試合のうち3勝すれば頂点に立てる。
追い込まれたのはアーセナルだ。長いこと首位をキープしてきたにもかかわらず、優勝を逃そうとしているのだ。もしこのまま優勝できなかったら、プレミアリーグにおいて優勝を逃したチームの「1位在籍期間」の最長記録を更新するという。それではデータを見てみよう。
[写真]=Getty Images
■248日
無敗優勝を遂げた2003-04シーズン以来となるリーグ制覇を目指すアーセナルは、今シーズン終盤戦まで快調に走り続けていた。今季プレミアリーグで唯一の3連勝スタートを切ったチームは、シーズン序盤に首位に立つと、そこから長いこと首位をキープ。試合数の差で首位の座を譲った時期もあるが、その後は1位の座を堅持し、2位マンチェスター・Cに5ポイント差をつけてワールドカップ中断期間を迎えた。
再開後も順調に勝ち続けたアーセナルだが、2月に入ってつまずくと、2月15日のマンチェスター・Cとの首位攻防戦に敗れて首位陥落。それでもすぐに連勝街道に戻って首位に再浮上し、シーズン終盤まで1位を走ってきた。だが、4月26日に再びマンチェスター・Cとの天王山に敗れると、とうとう4月末にマンチェスター・Cに首位の座を奪われてしまう。
それでも19年ぶりのリーグ制覇を諦めないアーセナルは「明日、試合に勝って248日にしたい。ムードなど関係ない。闘志を持ち続けるだけだ。まだ優勝を狙えるんだ」とミケル・アルテタ監督が檄を飛ばした翌日、5月2日のチェルシー戦に3-1で勝利して首位に返り咲いた。
翌日にマンチェスター・Cが勝利したため1日で首位の座を明け渡す形になったが、アルテタ監督が指摘した通り、アーセナルは今季プレミアリーグで「248日間」も首位に立ってきたのである。8月5日に開幕したプレミアリーグは今月11日でシーズン「280日目」を迎えたわけだが、そのうち「89%」の時間をアーセナルは首位に立っていたことになる。対するマンチェスター・Cはまだ「25日間」しか首位に立っていないのだが、栄冠に手を伸ばしているは彼らの方だ。
イギリス紙『ガーディアン』によると、アーセナルがこのままタイトルを取り逃した場合、彼らは1992年に発足されたプレミアリーグにおいて優勝を逃したチームの1位在籍期間の最長記録を更新するという。それでは過去の記録も見てみよう。
■リヴァプール(2018-19シーズン) 首位在籍141日
最終的にマンチェスター・Cがリヴァプールを1ポイント差で抑えて頂点に立ったシーズンも優勝争いは早々に一騎打ちとなった。FWモハメド・サラーとFWサディオ・マネがゴールを量産するユルゲン・クロップ監督のリヴァプールは、シーズン前半戦に何度か首位に立ったあと、12月に再びマンチェスター・Cを抜いて首位に浮上すると、そこから勝ち続けて終盤戦まで首位に君臨した。
無論、マンチェスター・Cも負けておらず、熾烈な優勝争いは互いに一歩も譲らなかった。リヴァプールが9連勝でシーズンを終えたのに対し、ジョゼップ・グアルディオラのマンチェスター・Cは2月から14連勝でフィニッシュ。結局、プレミアリーグ史に残るデッドヒートは最終的にマンチェスター・Cに軍配が上がった。
両チームの命運を分けたのは1月3日の直接対決だ。リヴァプールに7ポイント差を付けられて迎えた大一番、マンチェスター・Cは敗れれば10ポイント差となり白旗を振るところだった。そんな試合の前半18分、あわや失点というシーンでDFジョン・ストーンズが足を伸ばしてボールをかき出したのである。ゴールラインテクノロジーの判定はノーゴール。「11.7ミリ」だけボールがラインにかかっていたのだ。結局、マンチェスター・Cはこの試合を2-1で制し、最終的に1ポイント差で頂点に上り詰めた。
■アーセナル(2007-08シーズン) 首位在籍156日
4年ぶりのリーグ制覇を目指すアーセン・ヴェンゲル監督のアーセナルは、終盤に失速してマンチェスター・Uに栄冠を譲った。MFセスク・ファブレガスやFWエマニュエル・アデバヨールを擁するアーセナルは第5節に首位に立つと、そこから順調に勝ち点を積み重ねた。しかしシーズン後半戦に入って歯車が狂い始める。
そんなアーセナルを尻目に、マンチェスター・Uは強力な攻撃陣が躍動。プレミアリーグで得点王に輝いたクリスティアーノ・ロナウドを筆頭に、ウェイン・ルーニーやカルロス・テベスもゴールを決め続け、安定した力でアーセナルを抜き去って連覇を達成。さらにマンチェスター・Uはチャンピオンズリーグでも決勝でPK戦の末にチェルシーを退けてヨーロッパの頂点に立った。
■マンチェスター・U(1997-98シーズン) 首位在籍187日
勝負強いイメージだったアレックス・ファーガソン監督のマンチェスター・Uだが、彼らも終盤に崩れて優勝を逃したことがある。1997-98シーズン、デイヴィッド・ベッカムやポール・スコールズを擁するマンチェスター・Uはリーグ3連覇を目指して順調に飛ばしていた。
しかし肝心な時期に失速するのだった。痛かったのはキャプテンに任命されたMFロイ・キーンの離脱である。97年9月のリーズ戦で、キーンは敵選手と接触してその場に倒れ込んでシーズン絶望のケガを負った。その際に敵選手から罵倒を受け、キーンはそれを忘れておらずに4年後に復讐のタックルをするのだった。いずれにせよ、精神的支柱のキャプテンを欠いたマンチェスター・Uはシーズン佳境に取りこぼしが目立った。ちなみにキーンとやりあった敵選手というのは、現在マンチェスター・Cでゴールを量産するアーリング・ハーランドの父親、アルフ・インゲ・ハーランドだ。
結局、マンチェスター・Uは175日連続、計187日間も首位に立ちながら栄冠を逃すことに。そんな彼らをかわして7シーズンぶりに頂点に立ったのがヴェンゲル監督のアーセナルだ。彼らはFAカップも制して2冠を達成。これが「ファーガソン対ヴェンゲル」のライバル関係の始まりでもあった。
■アーセナル(2002-03シーズン) 首位在籍189日
2002-03シーズンもヴェンゲル対ファーガソン、アーセナル対マンチェスター・Uの一騎打ちとなった。アーセナルはFWティエリ・アンリ、FWデニス・ベルカンプ、MFロベール・ピレス、MFパトリック・ヴィエラを擁して素晴らしいサッカーを展開。11月から4月まで首位を走り続けたが、ファーガソン監督が「スクイーキー・バム・タイム(シートでお尻がすれて音が鳴る時期)」と呼んだシーズン佳境に勝ち切れない試合が続き、「189日間」も首位に立ちながらタイトルを逃した。
一方でマンチェスター・Uは12月末からリーグ戦で一度も負けることなく、最終的にアーセナルに5ポイント差をつけて栄冠を手にした。
■ニューカッスル(1995-96シーズン) 首位在籍212日
今季アーセナルが更新しようとしている記録が、プレミアリーグ史に残る“転落劇”である。1995-96シーズン、ケヴィン・キーガン監督率いるニューカッスルは、コヴェントリーとの開幕戦に3-0で勝利して首位に立つと、8月の2日間を除き、翌年の3月16日まで首位を走り続けたのである。
一時は2位マンチェスター・Uに12ポイント差をつけて独走状態に入った。だが、終盤にきてマンチェスター・Uに詰め寄られて首位を奪われると、96年4月29日に伝説のインタビューが生まれる。ファーガソン監督にマインドゲームを仕掛けられたキーガンは、リーズ戦に勝利して首位マンチェスター・Uに3ポイント差に迫った試合後のインタビューで“迷セリフ”を残したのだ。ファーガソンの挑発に対して「俺はここまで黙ってきたが、お前に言ってやる。俺たちはまだ諦めていない」と興奮気味に話し出すと「俺たちが勝ったら最高だ。最高だ!」とカメラに向かって言い放ったのである。
このインタビューは大反響を呼ぶことに。ファーガソンがマインドゲームを制した瞬間とも言われており、プレミアリーグ創立10周年と20周年のアウォードで「リーグ史に残るコメント」として表彰されることになった。
結局、ニューカッスルは「212日間」も首位に立ちながら、ファーガソンのマンチェスター・Uに栄冠を譲るのだった…。
(記事/Footmedia)