第341話 アプリで治療する時代へ 期待の医療「DTx」とは?

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、公園を散歩しながら投資談義を行っています。


T:最近日に日に暖かくなってきましたね。マスクの着用についても個人の判断にゆだねられることとなり、いよいよコロナ禍から抜け出しつつあることを感じます。

神様:今年はお花見も盛り上がるのではないでしょうか?

T:しばらくお預けだった分、楽しみにしている人はきっと多いでしょうね。

神様:さて、今日は医療分野で最近注目されていることについてお話しましょう。Tさんは「DTx」をご存知ですか?

T:いいえ、初めて聞きました。医療分野のDX、でしょうか?

神様:医療DXのひとつとは言えるでしょう。DTxとは、デジタルセラピューティクス(Digital Therapeutics)のことを言います。日本ではまだ明確な定義はないようですが、一般にモバイルアプリやITサービスを活用し、大学などの研究機関によるエビデンスに基づいた疾病の予防、診断・治療などの医療行為のことを言います。

T:最近はアプリで様々なバイタルデータが収集できます。スマートウォッチを装着していると、心拍数、呼吸数、体温などを測定してくれます。スマホと連携し、アプリ上ではデータをわかりやすく見ることができます。例えば睡眠中の状態から睡眠の質もわかったりしますし、データの細かさ、わかりやすさに驚きます。これらのデータを活用すれば、医療行為もできるわけですね。

神様:スマートウォッチと紐づいたアプリでは、様々な自分のバイタルデータを見ることができますね。しかし、DTxではさらに一歩踏み込んで”医療行為・治療のためのアプリやITサービス”を指します。

T:ということは、医師の処方に基づいて使われるということですか?

神様:はい。日本では「プログラム医療機器」として薬事承認を受けて使用されます。まだまだ事例は少ないですが、例えば、「ニコチン依存症治療アプリ」は薬事承認を受けており、日本初のDTxと言われています。

T:ニコチン依存症治療アプリ、聞いたことがあります。ニコチン依存症の人にとって、禁煙は自分の意志だけではなかなか達成できない難しい面がありますし、治療アプリの助けを借りて禁煙の成功率を上げるわけですね。

神様:世界では、2010年に米国で承認された2型糖尿病の治療のためのアプリがあります。これは世界初のDTxと言われています。その他にも、不眠症治療用アプリ、パーキンソン病患者の生活の質向上を目的としたアプリなど、日本の企業が開発して提供しています。

T:今後はこういったアプリがどんどん増えていくのでしょうか。

神様:世界の市場規模は、2022年で50億ドルを超えたところですが、2028年には190億ドルに達すると予測されています。DTxが普及することで、常に忙しい医療現場を改善させるソリューションのひとつとなるでしょう。また、患者にとっても医薬品の服用による対症療法から、生活習慣を改善することで抜本的な治癒につなげられる期待があります。さらに、医薬品メーカーにとっても、DTxを活用することでコストの削減や創薬までの時間の短縮を見込むことができます。患者・医療関係者皆にとってメリットがあり、今後の急速な普及が期待されているところです。

T:日本は超高齢社会ですから、アプリを使って生活習慣の改善による治療ができれば、予防医療の観点から医療費の抑制にもつなげられそうです。

神様:その通りです。日本では高い水準の国民医療費が財政を圧迫しています。DTxが予防医療に貢献することで、医療の適正化や医療費の抑制にもつながるでしょう。DTxは現在、新興ベンチャー企業や大手製薬企業などにより、急速に身近なものになりつつあります。今後は医薬品メーカー、行政、医療機関、患者のそれぞれがDTxへの理解を深めることによって、より一般に浸透されていくことでしょう。

T:DTxの今後の動向に注目したいと思います。

(この項終わり。次回3/22掲載予定)

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