スマートフォンやカーナビで当たり前のように使っているGPS。実はアメリカ軍が開発した技術でした。日本も独自の測位衛星「みちびき」を整備していますが、すでにGPSがあるのに、なぜ国産の衛星が必要なのでしょうか。
毎日使うGPSは、もともとアメリカ軍のために開発された!
2026年10月、千葉県の幕張メッセで開催されたデジタル技術の展示会「CEATEC (シーテック)2026」では、内閣府と準天頂衛星システムサービス株式会社が、日本の準天頂衛星システム「みちびき」を紹介しました。
みちびきは、日本周辺での利用を重視した人工衛星を使い、地上にいる人やクルマなどが現在地を把握するためのシステムです。2018年に4機体制でサービスを開始し、その後も衛星の増強が進められています。
特徴の一つが、人工衛星の軌道です。みちびきの一部の衛星は「準天頂軌道」と呼ばれる特殊な軌道を飛んでおり、日本の高い空に長時間見えるように設計されています。これは、高層ビルなどによって電波が遮られる影響を減らすためです。
そもそも、人工衛星を利用して現在地を調べる技術は、私たちの生活に欠かせないものとなっています。
代表的なのがGPSです。スマートフォンの地図アプリやカーナビはもちろん、航空機や船舶の航行、物流、建設など、さまざまな分野で使われています。しかし、意外にもこのGPSはもともとアメリカ軍が開発した技術なのです。
1973年にアメリカ国防総省が開発を開始し、1995年には世界規模で利用できるシステムとして完全運用能力を獲得しました。
現在では民間にも広く開放されていますが、GPSそのものはアメリカ政府が保有し、米宇宙軍が運用しています。つまり、私たちが普段使っているGPSは、アメリカが整備した衛星インフラなのです。
もっとも、人工衛星を使って現在地を調べるシステムはGPSだけではありません。ロシアや欧州、中国なども独自の衛星測位システムを整備しており、日本も「みちびき」の運用を進めています。
GPSの精度をアメリカ政府が制限していた時代も!
GPSが世界中で利用できるにもかかわらず、なぜ日本は独自の測位衛星を打ち上げているのでしょうか? 理由の一つは、交通や物流などを支える重要なインフラを、外国のシステムだけに依存しないようにするためです。
GPSは現在、世界中で、無料で利用することができます。しかし、その運用方針を決めるのはアメリカ政府です。
実際にGPSでは、かつてアメリカ政府が民間向けの測位精度を意図的に低下させていた時期がありました。これは「Selective Availability(SA)」と呼ばれる仕組みで、安全保障上の理由から一般向けの測位信号に誤差を加えるものでした。
この制限が解除されたのは2000年5月のことです。それまで民間向けGPSでは、測位結果に数十mから100m程度の誤差が生じることもありましたが、制限の解除によって精度が大幅に向上しました。
ただし、現在のGPSで同じ制限が続いているわけではありません。アメリカ政府はSAを再び使用する意図はないと表明しており、新しいGPS III衛星には、この機能自体が搭載されていません。
一方、海外の衛星サービスへの依存が問題となった事例は、近年もあります。
例えば、ロシアの侵攻を受けるウクライナでは、アメリカのSpaceXが提供する衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」が軍の通信などに利用されています。
ところが2026年10月には、Starlinkの軍事向けサービス「Starshield(スターシールド)」などに利用制限が生じ、ドローンの運用に支障が出たと報じられました。ウクライナ側によると、一定以上の速度で移動する機器で通信が途切れる問題が発生し、一部の任務を中止せざるを得なくなったといいます。
Starlinkは衛星通信サービスであり、現在地を調べるGPSとは異なります。しかし、外国が管理する重要なインフラに依存することの難しさを示す事例といえるでしょう。
日本でも、衛星測位は航空機や船舶、自動車などの交通だけでなく、通信や物流など幅広い分野で使われています。こうしたサービスに大きな障害が発生すれば、私たちの生活にも影響が及ぶ可能性があります。そのため、GPSを補完しながら、日本自身が測位能力を確保することが重要になっているのです。
ただし、みちびきはGPSをそのまま置き換えるものではありません。GPSと互換性のある信号を送信し、組み合わせて利用することで、測位の安定性や信頼性を高める役割も担っています。
実はスマホも自衛隊も利用! 日本の「みちびき」は何がすごい?
では、みちびきは実際にどのような場面で使われているのでしょうか?
CEATEC 2026の会場で、みちびきの運用に携わる関係者に話を聞いたところ、対応するスマートフォンやカーナビでは、利用者が特別な操作をしなくても、みちびきの信号を利用しているといいます。
つまり、普段GPSを使っていると思っていても、実際にはアメリカのGPSと日本のみちびきなど、複数の衛星からの信号を組み合わせて現在地を調べている場合があるのです。
さらに、みちびきには、GPSなどによる測位の精度を、さらに高めるためのサービスもあります。その一つが「CLAS」と呼ばれるセンチメートル級測位補強サービスです。専用の受信機を利用することで、GPSなどの測位誤差を補正し、数cm単位で位置を把握できます。
例えば、農業機械の自動走行では、決められた経路を正確に走るために高精度な位置情報が必要です。建設現場で重機の位置を管理したり、ドローンを決められた経路で飛行させたりする際にも役立ちます。CEATECの会場でも、こうした技術を利用する農業ロボットやドローンなどが紹介されていました。
さらに、みちびきは安全保障の分野でも重要な役割を担っています。
防衛省は、GPSなどと組み合わせてみちびきを利用する方針を示しており、政府が認めた利用者向けの「公共専用信号」への対応も進めています。これは、電波妨害への耐性を高め、測位能力の信頼性を確保するための取り組みです。
みちびきは2018年に4機体制でサービスを開始しました。2026年8月には7号機の打ち上げに成功し、軌道上の衛星は6機となりました。今後は、GPSなど外国の衛星に頼らず測位できる7機体制を構築し、さらに1機が故障しても測位を継続できる11機体制を目指しています。
みちびきの存在により自衛隊ではアメリカのGPS衛星と一体運用して高精度な測位などを実行しているほか、7機のみちびきが打ち上げられたことにより日本上空に常に4機以上のみちびきがある状態になり、みちびき単独での持続測位が可能となっています。
私たちがスマートフォンやカーナビで現在地を確認するとき、その裏側では日本独自の人工衛星も働いています。
もともとアメリカ軍が開発したGPSは、今では世界中の人々の生活を支える技術となりました。しかし、それだけに依存するのではなく、日本も独自の測位衛星を持とうとしています。
普段は存在を意識することのない「みちびき」ですが、その役割は私たちが思っている以上に大きいのかもしれません。