今年は世界のパター市場にかつてない変化が。“ライ角バランス”のL.A.B. GOLF人気が爆発し、日本でも11万円~でカスタムすると20万以上の高額パターが売れに売れた。その影響か、ゼロトルクを売りにする後発メーカーも軒並み価格をつり上げ、直近ではパター1本8万円超の新作が珍しくなくなった。
物価高とはいえ、パターだけ突出して高額になる理由は何なのか? クラブ開発のレジェンドで、テーラーメイドやキャロウェイで開発部門の上級副社長を歴任したショーン・トゥーロン氏に見解を求める機会を得た。氏は現在ファミリービジネスとして「トゥーロンゴルフ」で高級パターを展開中だが、自身の2025年モデル(税込17万500円)を例にこう説明する。
■マシンタイムが他社の数倍だから高い
「今作は“ソフトの美学”をテーマにデザインして、形状のどこを見てもバランスがよく、細部に丸みを帯びたソフトでスムースな仕上げを妥協なく突き詰めました。パターには打面の裏側に凹みがありますが、高級と呼ばれるパターブランドでも、まったく手触りが違います。出来れば試打パターなどシュリンクがかかっていないモノを触り比べれば、私のパターのスムースさが分かると思います。
ミルドマシンで削り出すのに、どれくらいの時間をかけて丁寧に行うかを“マシンタイム”と製造者側は呼ぶのですが、私のパターのマシンタイムは他社の高級パターの数倍をかけます。どの社とは言えませんが、時短になる職人による手削りとは精度も全く違いますし、凹みの部分は職人の手では削れません。本来すべてがスムースであるべき手触りや表面精度に抜かりが出るのです」(トゥーロン氏)
ステンレス素材も前作の「303」から「304L」に「ソフトな打感のため」変更したことも高価な理由だと言い、ここまで「ソフト」を貫く理由は選手のフィードバックだ。「PGAツアー中心にシャープなエッジとソフトな部分の混合を嫌がる選手が多いので徹底する必要がありますし、この部分は職人の手だと必ず誤差が出るので、全てマシンを使って均質化したいんです」。
■エッジや形状だけでなく“音”にも美しさを
ゼロトルクブームによって、ただでさえ少数派だったブレード型人気はさらに縮小。今年の北米パター市場の割合は、ゼロトルク39%:マレット型39%:ブレード型22%になったが、氏のパターは全く構成比が異なり「ブレードが一番人気」だとか。その理由も長時間のマシンタイムと関連するという。
「私の顧客は“美しさ”第一なんですよ。今回の2025年モデルはシリーズでネックを含め20モデル以上ある中、最も売れたのはオーソドックスなブレードタイプの『HOLLYWOOD』でした。長時間のマシンタイムでソフトなエッジを作り、見た目・打感・音・全てに美しさを追求したので、そこにハマった『HOLLYWOOD』がマレット型より人気が出たことに驚きは全くないです。フェースのミルドパターンも素材に合うソフトで澄んだ美しい打音を求めてこだわっていますしね」
トゥーロン氏の北米のオフィスには、フィッティングスタジオを併設しており「凹みの触り比べ」を現地のゴルファーに話して理解も広がっているという。北米ゴルファーでは一般的な「トウハング」の重要性や相性も含めて、氏は写真や値段ではなく自分の目と手で【現物】を確認することの重要性を強調していた。
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