
米欧ゴルフ界の9月は「ライダーカップ」の話題ばかりだったが、そんな中、なぜPGAツアーは試合開催スケジュールを変えないのだろうかと、少々不思議に感じられる。
たとえば、今年はプレーオフ最終戦の「ツアー選手権」終了後、2週間のオフを経て、フォールシリーズ第1戦の「プロコア選手権」が開催され、さらに1週間のオフを挟んでライダーカップが行われた。
そして、ライダーカップの翌週からはフォールシリーズが再開され、第2戦の「サンダーソン・ファームズ選手権」が開催された。
ツアー選手権とライダーカップに挟まれたプロコア選手権は、ライダーカップに出場する米国チームメンバーたちの練習の場と化し、ライダーカップ翌週のサンダーソン・ファームズ選手権は、ただでさえ出場選手の顔ぶれが寂しいところに、賑やかなライダーカップとのギャップが際立ち、うら寂しい雰囲気に包まれていた。
いっそのこと、ツアー選手権の直後にライダーカップを開催し、その後にフォールシリーズが開始されるという日程に変えた方が、選手たちにもファンにも、すっきりしてわかりやすいはずだと、つくづく思う。しかし、その背景には「大人の諸事情がある」ということなのだろう。
それはさておき、ライダーカップ翌週の大会と聞いて思い出されるのは、2012年のライダーカップの翌週、デービス・ラブIIIが“米国チームを敗北させたキャプテン”という枕詞を付された状態で、フォールシリーズの大会に出場したときのことだ。
練習日。一人で黙々とパット練習を繰り返していたラブの傍には、誰も近寄って来なかった。ラブのキャプテンとしての在り方に冷たい視線を向ける人々がいた一方で、口を“への字”に結んでいたラブに何と声をかけたらいいのかわからないという雰囲気も漂い、練習グリーン周辺の空気は凍り付いていた。
そんな中、日本メディアの私は、米欧のどちら寄りでもなく、何の利害も絡まない“便利な存在”だったのだろう。練習グリーン際に立っていたら、ラブのほうから近寄ってきて、しばらく話をしていたら、彼の表情が少しずつ和らいでいった。その様子を見つめながら心の中で「よしよし!」と安どしたことを、今でもよく覚えている。
今年のライダーカップで敗北した米国チームのキャプテン、キーガン・ブラッドリーも、しばらくの間は、あのときのラブと同じような辛い状況に置かれてしまうことだろう。
そもそも、今年の米国キャプテンの筆頭候補はタイガー・ウッズだったのだが、ウッズが「多忙」を理由にキャプテン就任を拒み、他の候補者も見つからないという困った事態に陥った。
そして、ライダーカップへの熱い想い入れと絶大なる愛国心を以前から示していたブラッドリーならキャプテンを引き受けるだろうということで、彼は急きょ、担ぎ上げられた感があった。
もちろん、ブラッドリー自身はどんな経緯があったにせよ、ひとたび引き受けたキャプテン業を立派に務めようと必死だった。そして、彼のひたむきな姿勢は、大会前には米国ファンからも評価されていた。
今年のライダーカップで欧州勝利が決まった途端、欧州キャプテンのルーク・ドナルド(イングランド)には「2027年大会でもキャプテンを!」と3大会連続のキャプテン就任を望む声が欧州で続出した。
その一方で、米国ではブラッドリーのキャプテンとしての在り方が疑問視され、2027年大会のキャプテンは「今度こそ、タイガー・ウッズだ」「スチュワート・シンクも良さそうだ」といった声が次々に上がった。
ライダーカップは勝ってナンボの戦いであり、敗北キャプテンが針の筵(むしろ)にさらされることは、今に始まったことではない。しかし、キャプテンだけに批判が集中することは、あまりにも不条理で、やるせない。
そんな中、救われた想いがしたのは、欧州チームのローリー・マキロイ(北アイルランド)が、試合会場に立ちすくんでいたブラッドリーの2人の幼い息子たちのところへ足を運び、真剣な面持ちで何かを語りかけていた場面を目にしたときだった。
やり取りの声は聞こえなかった。だが、マキロイの表情からは、こんな言葉が聞こえてきたように感じられた。
「キミたちのパパは、キャプテンとして立派に戦った。勝ち負けではなく、パパが頑張ったことを誇りに思い、堂々と胸を張るんだぞ」
マキロイが示したスポーツマンシップは、ブラッドリーの息子たちにとっても、傍らで聞いていた彼らの母親にとっても、そしてブラッドリーにとっても、きっと、大きな救い、大きな力になったのではないだろうか。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)