
昨年でツアーから撤退した上田桃子やルーキー・六車日那乃などを輩出する「チーム辻村」を率いるプロコーチの辻村明志氏。右利きが陥りがちな“かぶり”を防ぐ練習法を教えてくれた。
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日本人の多くの人がそうであるように、ボクも右利きです。そのため右サイドの方が強く、どうしても右サイドが前に出る、というクセがあります。右の肩、腰、手が前に出て、いわゆる“かぶる”という動きにつながるのです。これがスイングを悪くしているのはいうまでもありません。
余談ですが、ベン・ホーガン、ジャック・ニクラス、岡本綾子プロ、アーニー・エルス、セルヒオ・ガルシア、ジョーダン・スピース……彼らに共通するのが、左利きながら右で打つことです。そのため利き腕サイドが前に出る、という悪いクセがないのでしょうか。一流プレーヤーには、そうしたタイプの選手が多いのは偶然ではないでしょう。逆にフィル・ミケルソンは右利きですが、鏡のようにお父さんの真正面に立ってゴルフを覚えたため、世界のレフティと呼ばれるようになりました。さらに付け加えれば、ボクの兄弟子に当たる王貞治さんは左利きですが、ゴルフは右で打ちます。無論、ゴルフが上手なことはいうまでもありません。
それはともかく、そうした右利きの悪いクセを防ぐ練習を紹介します。といっても実にシンプルな練習で、ヒザ立ちして素振りする、あるいはボールを打つ練習です。ジャンボ尾崎プロや横峯さくらプロが、よく椅子に座ってボールを打つ練習をしていましたが、同じ効果が期待できます。右サイドがかぶる人は、ヒザ立ちの状態ではまずトップがいい位置に上がりません。テークバックで右肩が上がってしまうからです。ボクが指導している選手には、「普通にアドレスしたときと同じくらい飛ばすつもりで振れ!」と檄を入れるのですが、右サイドが前に出る選手はまず打てません。いいポジションにトップが上がらなければ、ボールに当てることすら難しくなります。
いいトップを作るためには、テークバックで前傾角度通りに両肩を回して、左右の肩の高さを整えなくてはなりません。そうすると腕の動きもテークバックで右ヒジが下、フォローで左ヒジが下になる、理想的なローテーションを身に付けることができます。いわゆる“腕を上手くたためる”状態です。そうなるとダウンでシャフトの通り道がひとつの面になり、いわゆるスイング(シャフト)プレーンの安定につながります。この安定こそが、スイングに求められる再現性の正体です。
右サイドが強く前に出る人は、ダウンでクラブが上から入る傾向があります。これがアマチュアに多い、いわゆるアウトサイド・イン軌道で、スライスの原因になっていることが多いのはいうまでもありません。では、その反対に、インパクトでクラブヘッドが下から入るアンダー、いわゆるあおり打ちと呼ばれるスイングはどうでしょうか。実はこれもアマチュアの多くの場合、同じ理由……つまり右サイドが強く前に出ることが原因であることが多いのです。
というのもクラブが上から入るのを嫌がって、小手先でクラブヘッドの動きを調整しているからです。テークバックで右肩が上がり、その反動でダウンで右肩が下がり右腰が前に出る、いわゆるギッタンバッコンは、そうした動きの最たるものでしょう。つまり“かぶり”を嫌がって、“あおる”というわけです。
もっともこれはアマチュアに限ったことではありません。たとえば、上田桃子プロの場合、厳密にいえばインパクトでは、スティープアンダー。つまり、ヘッドが緩やかな角度で下から入ってきて、これが最大の武器である飛距離の出るドローボールにつながっていました。ややアッパー軌道に打てるのは、やはり右サイドが強くても軸が倒れないから。上田プロのような一流プロの場合、ヘッドを実に上手に動かせるのです。もちろん、一流の技なのですが、クセが強く出過ぎて、右サイド(右腰)が前に出てしまいあおる動きになるときには、このヒザ立ちのドリルをやらせていました。
そしてこの練習こそ、ボールを体の真正面で捉える“さばく”コツであることを付け加えておきましょう。
■辻村明志
つじむら・はるゆき/1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子、六車日那乃らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも教えている。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフの指導に取り入れている。元(はじめ)ビルコート所属。
※『アルバトロス・ビュー』872号より抜粋し、加筆・修正しています
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