
<パナソニックオープン 3日目◇27日◇泉ヶ丘カントリークラブ(大阪府)◇6993ヤード・パー71>
岩田寛は静かにずっと怒っていた。9番パー5。残り237ヤードから3番アイアンで2オンに成功すると、5メートルのイーグルパットを沈めた。さらに奪ったバーディは6個。「64」はこの日のベストに並ぶスコアであり、今季自己最高だ。
誰がどう見ても会心のラウンドで2位に浮上しても、4番パー4で叩いた唯一のボギーが許せない。モヤッとした思いはホールアウト後も消えることはなかった。
「今も引きずっていますよ。よく出るミスが出て…。しょうがないミスもあるけど、許せないミスもある。例えば、どんなにいいゴルフをしていても、最後に4番みたいなミスが出ると、すべてがゼロになる。絶対に許せない。そういうミスです。大体、毎日出るんで大変です」
ショットで生じたミスだという。はた目には分からないトッププロゆえの感覚のズレに起因するミスに近いものかもしれないが、44歳のベテランは「優勝はしたいけど、自分がやりたいことができないと本当にイヤだ」と顔をしかめた。
首位とは3打差。約1年1カ月ぶりとなる最終日最終組から、昨年11月の「カシオワールド」以来となるツアー通算8勝目を狙う。「スコアはどうでもいい。いや、どうでもよくはないか」。自分の言葉を苦笑しながら否定し、「最終日最終組は今年初めてなんで、それはよかった」と、ここは素直に喜んだ。理想とするゴルフを完璧に遂行することが大きな幹だが、勝つことも大きなテーマ。最終日を最終組から出ての優勝はこれまで2度ある。
40歳91日で通算3勝目を挙げた21年「中日クラウンズ」から昨年まで毎年勝ってきた。44歳240日が最終日の今大会を逆転で制することができれば40歳になってから5年連続V。40代で12勝し、43歳のときに初の賞金王となった藤田寛之も4年連続でいったん優勝は途切れた。
「藤田さんとか谷原さんという先輩がいるから自分も頑張ることができる。向上心というか、もっとうまくなりたい、強くなりたいという気持ちは今もあります」
東北福祉大時代の2年先輩だった谷原秀人は、23年「ANAオープン」を44歳305日で制し、ツアー通算19勝目を挙げた。ここまで40代で5勝。前を歩く先輩たちがいるから、岩田も迷わずに進むことができる。
16年に米ツアーに挑戦した。4位になった大会もあったが、シードは獲得できなかった。翌年から日本ツアーに戻ったが、「QTは考えています」と再挑戦の思いがゴルフを続けるモチベーションにもなっている。寡黙な男がポツリポツリと話す声は小さいのが記者泣かせだが、熱い思いはしっかりと伝わってくる。(文・臼杵孝志)