
<ミネベアミツミ レディス 北海道新聞カップ 最終日◇13日◇真駒内カントリークラブ 空沼コース(北海道)◇6688ヤード・パー72>
クールな22歳が泣いた。最終18番パー4。2打目をピン右手前6メートルに乗せた。リードは5打。もう初優勝は揺るぎなかった。最後はバーディで締めて、初日からの首位を守る完全V。満開の笑顔で待ち望んだ瞬間を迎えた内田ことこは、北海学園札幌高時代の2年先輩の政田夢乃や宮田成華、同い年の仁井優花らから祝福のハグを受けて、涙腺が決壊した。
「初日からいいスコアで回れて、優勝を意識しながらの4日間だった。最後はバーディを取って、いい形で終わりたいと思っていた。地元で初優勝ができて、良かった。いつも一緒に練習している選手の人たちが待っていてくれて、顔を見たら、やっぱり涙が出ました」
初優勝を4日間大会の完全Vで成し遂げた。国内女子では史上5人目の快挙だ。2位に2打差をつけて迎えた最終日は、グリーン左奥ラフからの15ヤードのチップインバーディで始まった。「難しいアプローチ。パーで上がれれば、と思っていた」。いきなり訪れたピンチをチャンスに変えたスタートホール。ゴルフの神様も背中を押してくれた。
2002年10月4日に自然豊かな北海道南幌町で生まれた。同学年には、今年から米ツアーに主戦場を移した岩井明愛・千怜姉妹、昨季3勝の桑木志帆、今季初Vから既に3勝を挙げている佐久間朱莉らがいる。
プロテストには21年6月に一発合格。高校3年時に受けるはずだった最終プロテストは、コロナ禍で約8カ月も延期された。北海道の冬期は雪のため、長期間ゴルフ場がクローズとなる。室内の練習だけでは合格はおぼつかない。そんな窮地に動いてくれたのが、父・崇広さんだった。
「父が探してきてくれて、そこで練習させてもらいました」
その年の冬を過ごしたのは、男子ゴルフの中嶋常幸の弟で、自身もプロの和也氏が社長を務める栃木・東松苑ゴルフ倶楽部。スパルタ教育で子どもたちを鍛えあげた中嶋の父・巌氏が心血を注いで造ったゴルフ場で、練習に明け暮れた。
「常幸プロが練習に来られたときには『一緒に回るか』と声をかけてもらったこともあります。“とにかくすごい人なんだ”ということくらいしか知らなかったんですけど」。プロテスト合格後も合宿に参加。「ショートゲームの引き出しの多さなど、すごく勉強になった」と通算48勝のレジェンドの技術を特等席から学び、力をつけてきた。
プレー中はめったに喜怒哀楽を表に出さない。初めて最終日を首位から出て、3位に終わった昨年の「宮里藍 サントリーレディス」のときも「また頑張ろうと思った」とV逸を淡々と受け止めた。「さばさばしているとよく言われる」という一方で、「一喜一憂するタイプ。それをいい方向に持っていけるように努力している最中です」と体の内には荒ぶる感情も持っている。
大勢のギャラリーが声援を送ってくれた4日間。はたから見れば、終始落ち着いているように見えたが、プレッシャーとは常に戦っていた。「きょうも朝からずっと緊張していました」。ティオフすればホールアウトまで孤独な戦い。唯一の相談相手はキャディだけだが、今週は23年に中島啓太が賞金王に輝いたときのエースキャディ・島中大輔氏がバッグを担いでくれたことも大きかった。
「島中さんにはルーキーの年から何回かお願いしていて、悩みとかを聞いてもらっています。自分のことをすごく理解してくれている人で、試合でもいつも的確なアドバイスをくれる。心強かった」
今季では初のタッグ。一番刺さった言葉は『考えすぎるな』。前週まで2週連続の予選落ち。「調子は悪くないのになんでだろうと思っていた。自分でも考えすぎかなぁと思っていたのを、島中さんに言われ、やっぱりそうだなぁと…」。構えて、やるべきことを決めたら迷わず振る。それだけを繰り返した先に、デビューから123試合目の頂点があった。
「また優勝できるように頑張りたい」
今季17試合目で、初優勝者は早くも6人目。昨季年間女王の竹田麗央、2023・24年女王の山下美夢有に岩井姉妹、原英莉花も抜けたスター不在の女子ツアーに、新たなヒロイン候補が誕生した。(文・臼杵孝志)
【4日間大会完全Vでツアー初優勝】
1990年:「宝インビテーショナル」西田智慧子
2006年:「日本女子オープン」ジャン・ジョン
2007年:「サントリーレディス」チャン・ナ
2010年:「日本女子オープン」宮里美香
2025年:「ミネベアミツミレディス」内田ことこ
※1988年のツアー制度施行前も含む