単なる競技団体からの脱却へ動き出したJGA ゴルフのさらなる普及を目指した改革とは 

JGA(公益財団法人・日本ゴルフ協会)では、“ゴルフの振興”を大命題にかかげ、さまざまな改革、施策が実施されつつある。JGAのイメージといえば、「お堅い役所のようなところ」「よくはわからないけど、日本のゴルフの総本山」など、名前は知っていても、実際にどんなことをしているのかを知らない人も多い。そんなJGAが本腰を入れた改革は2021年に、JGAの法律ともいえる、定款(ていかん)を変更することで一気に加速。さまざまな具体策が創出された。
「JGAはアマチュアの競技団体としてずっと歩んできたという歴史があるのですが、一方で競技ゴルフをしているのはゴルファー全体の数パーセント。ゴルファーがいて初めて競技が成立する、という中で日本ゴルフ協会(JGA)はどういう団体であるべきか? を改めて見直さなきゃいけない時期にきていたんです」、とJGA山中専務理事は話す。
 
そこで最初に行ったのが加盟クラブや各地区連盟、そのほか様々な人への聞き取り調査、現場からの生の声を把握することだったという。「アンケートみたいな聞き取りをしたんです。その中で多かったのが3つあって1つはゴルファーの数を増やしてほしいということ。2つ目は、いまゴルフを続けている人達にもっとゴルフをしてもらいたい、3つ目がゴルフのイメージアップというかゴルフ界のとりまとめ、旗振りをしてほしいという声だったんです」。
 
聞き取りによって見えてきた3つの要望に対して、「いままでJGAはなかなかこれらの問題に取り組んでこれなったと反省することも多くて、それであればJGAも考え方を変えなきゃいけないんじゃないかということになりました」と経緯を話す山中氏。
 
続けて「そのためには我々の法律でもある定款(ていかん)を変えて、JGAというのはまず最初にゴルフの普及と振興を第一にするところなんだ、というのを理事会、評議員会にかけて、それがあって初めて競技とかハンディキャップとか規則、選手強化があるんだという設計図を作り直したんです」。この大改革ともいえる変更なくして、未来へとつながるゴルフ普及への道筋はつけられなかった。組織変更の結果生まれたのが、『ゴルフ振興推進本部』。そしてその中に『情報シェアリング部会』『ゴルフと健康部会』『女性とゴルフ部会』という3つ部会が設置されることとなった。
 
「ゴルフ界は、各団体や施設単位でいろいろないいことをやっているんだけど、なかなかそれを取りまとめるところがない。発信する場所がない。だったらJGAがそういう窓口を作って、振興策を取りまとめてそれをみなさんに見ていただくようなツールを作ろうということで、まずは『情報シェアリング部会』を立ち上げました」。これが、ゴルフ普及の旗振り役を担うこととなり、さらにそこから2つの部会が続くことになる。

続いて2つ目の施策となる、『ゴルフと健康部会』について理事の吉田裕明氏は、「関東ゴルフ連盟から引き継いだプロジェクトがあるんですが、それぞれのゴルフ場、または練習場が立地する市町村と一緒に組んで、いま現在ゴルフをやっていない人たちに声をかけて初心者教室をやり、みなさんの健康寿命を延ばしましょうと、いうプロジェクトを始めました」。
 
少子高齢化は現代の日本が抱える喫緊の問題として取り上げられることも多いが、“ゴルフが健康にいい“となればさまざまな波及効果が予測される。「例えば公報で市町村から参加者に来てもらう。そしてその人たちの健康のためにゴルフ場としてできることをやりましょうということが背景にあります。ゴルフ場が市町村に対していままでご迷惑ばかりかけていたかもしれませんけど、やはりゴルフっていいもんですよね、そしてゴルフ場ってこんなにいい所もあるんですよ、みんなで健康になりましょうというというようなことで、市町村と住民に貢献するような流れを作りたい」と吉田氏は話す。
 
高齢者の健康増進は、市町村の財政に直結する大きな問題でもある。「国民健康保険は市町村が維持していますから、より長く健康でいることはその街にとって非常に重要。そう考えていくと、そこが核になってコミュニティができる。特に言われているのは高齢者の場合、コミュニティから離れて1人になってしまう人たちの健康が非常に害されるという話もあります。そういった問題も、これはやってみてわかったことなんですが、コミュニティができると、みなさん元気で長生きということが絵空事ではなくて実際に起こる可能性があるんです」。
 
これからの日本、長寿社会であればあるほど老後の生活をどう送るかは大きなテーマとなる。歳をとっても楽しくできる、そして世代を超えてできるスポーツというものはゴルフ以外にないといっても決して言い過ぎではないだろう。
 
実際にゴルフ健康週間(9月11日~17日)では、1日で完結するプログラム(WAGスクールという初心者のためのレッスン。本来は8週間のプログラム:以下WAG)を実施した。「そこに集まってくる人は、市町村にお願いして、市町村の広報誌を通じて公募するんです。それを見た方が集まってきて初心者講習会に参加する。本当のWAGになるとワンデイじゃなくて8週間なんですけど、それではハードルが高いので、今回は導入ということで1日、ゴルフ健康週間でやりましょうと。その時に先ほど言った市町村での公募してもらうという仕組みがそこで出来ますよね。そういう仕組みが出来上がってくると、今度は市町村の方でも、実はもっとこういうことをしてほしい、などがでてくるんです」。
 
今までゴルフ場に来たことがない人がゴルフ場に足を運ぶようになれば、ゴルフコースの存在価値、意義がより高まる。そして町の高齢者も喜んでくれる。具体的な要望として上がっているのは、「ひとつは高齢者の健康のためにゴルフ場を1日開放してくださいと、そこに町の人をみんな集めますから、そこで散歩をさせてください、半日散歩したり体操したり。もちろん定休日ですからどうぞと。もうひとつは幼稚園の子どもたちを来させたいのでそこで開放してほしいなどです」。
 
実際に動き始めると、いろいろないいことを投稿してもらい、それを一気に見られるようなサイトにしたいというのが情報シェアリングで作ったホームページになる。
 
「残念ながらそこに投稿してくれる加盟クラブの数がまだ少ないので、あまり多くはないんですけど、でもイベントを実施するごとに市町村の方でもそういうことが目に付くと、今度はゴルフ場とこんな取り組みができないかとか、ゴルフ場の方でもでは一緒にやりましょうとかなっていくと、増々社会に対してゴルフ場が責任を果たせるというか貢献できることが増えていくんです」。

さらに、3つ目の『女性とゴルフ部会』について、常務理事の平山伸子氏は「ここのところの世界の流れをみていても、R&AもUSGAも、ゴルフの規則をつかさどる団体ですが、特に我々と近いR&Aは、ゴルフの普及の重要性を提唱して、その活動を活発に行っています」。
 
この動きの中で、女性ゴルファーも増やしていこうという流れが生まれる。2018年にはR&Aが女性ゴルフ憲章というものを立ち上げ、世界中のナショナルフェデレーションやゴルフの団体、企業に働きかけを行ってきた。「女性ゴルファーを増やしましょう、女性にもゴルフを楽しんでもらえるような環境をつくりましょう、そのためにあなたの協会は、あなたの団体は何をしますか? とR&Aが投げかけたんですね」と平山氏。
 
これがきっかけとなって、多くの国、多くの団体が賛同しサインをしてそれに基づいて活動をしていくことになったという。「2019年にJGAもR&Aの働きかけに賛同してサインをしました。そこで、女子ゴルファーを増やす、女性のゴルフ環境をもっと良くしていこうという活動が始まり、その後に振興推進本部と合体して現在に至ります」。
 
ゴルフにおける堅苦しいイメージの払しょく、ゴルフ場における男性優位の仕組みなど、女性が快適にゴルフを楽しむには多くの改善点、古い体質からの脱却が求められる。
 
平山氏はさらに続けて「特に女性の方には、ゴルフの堅苦しいイメージから、もう少しカジュアルにも楽しめるものだということを伝えていきたいです。必ずしも上手でなくても楽しめる方法、ゴルフのエンジョイの仕方を提案したいし、ゴルフに入りやすい環境づくりをできる限りしていきたいです」。
 
ひとつの例として平山氏が挙げたのが、女性のトイレ問題。「これまでともすればゴルフ場で女性プレーヤーが来たときに何が必要なのか置き去りにされていたのではないかと思います。トイレにしてもお風呂にしても。一番顕著なのは、コース内のトイレではないでしょうか。ややお粗末なところが以前は多かったように思います。でもだんだん意識が変わってきて改善されつつあると思います。こういうこともすごく大事で、特別豪華にする必要はないのですが、女性が気持ちよく快適に過ごせるように。それは男の方だって同じだと思います」。
 
女性ゴルファーを増やす具体的な活動として開催されたのが、ウィメンズゴルフデー。(WGD:6月6日に実施) 「このイベントでみなさんに訴えて、女子のみなさんゴルフやりましょうというメッセージを伝える場として使わせていただいて、これからも練習場、ご理解のあるゴルフ場さんとお話をして女性を受け入れやすい環境づくりを次のステップとしてやっていかなきゃいけないと思ってます」。
 
今回のウィメンズゴルフデーではJLPGAはじめ、ゴルフ場、スポンサーの理解のもと、ゴルフトーナメントの会場(ヨネックスレディス、サントリーレディース、男子のツアー選手権)で各種イベントを開催することができたという。これに対し平山氏は、「ひとつの目的があると一致団結できるんだということが、ありがたかったし嬉しかったです」と話す。団体や枠組み、利害関係を越えた横断的な取り組みを行う時こそ、JGAが担う役割は大きいはずだ。
 
「豊かな時間、豊かな生活を送れるようにゴルフを使ってくださいと、ゴルフってそれぐらい素晴らしいスポーツですよと、必ずしもアスリート的なスポーツじゃなくても楽しめるものだということを伝えていきたいと思います。ゴルフ場にも練習場でも行きやすい、そういう環境づくりをしていくことが、ゴルファーを増やし、ゴルフというビジネスをサステナブル、きちんと健全に持続していくために大事だと思います」。
 
日本の未来を考えた時、高齢者でも取り組むことが可能で女性にも楽しめるゴルフには確かに可能性がある。いつまでも健康で女性も男性もプレーを楽しむ生活。日本の未来はゴルフで明るくなる! JGAの大改革が未来へとつながり、花開くことを願うばかりである。

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