
新型コロナウイルスの影響がやや残るなか、2022年の国内男女ツアーは概ねスケジュール通りに開催された。各試合でさまざまなドラマが誕生。“試合中の選手たちに最も近いメディア”であるツアーカメラマンが見た印象的な名場面を紹介する。
2022年の男子ツアーを振り返ったとき、蝉川泰果(たいが)の快進撃は避けて通れない。6月に行われた下部の「ジャパンクリエイトチャレンジ in 福岡雷山」で史上5人目のアマチュア優勝を達成すると、9月にはレギュラーツアーの「パナソニックオープン」で史上6人目のアマチュア優勝。ワンダーボーイの活躍はそこで終わらなかった。
10月の「日本オープン」では、4日間首位を譲らない完全優勝。プロも喉から手が出るほど欲しいナショナルオープンのタイトルを、大学4年生が勝ち取ってしまった。アマチュアでの日本オープン優勝は第一回大会以来95年ぶり。そして、アマチュアでのツアー2勝は史上初の快挙だった。
その日本オープンで蝉川のプレーを「こいつは怪物だ」と思いながらシャッターを押していたのは上山敬太カメラマン。最終日の17番グリーンでの“神対応”を印象的な1枚に挙げる。
3日目を終えて6打の大量リードがあった蝉川。最終日も1、2番を連続バーディとして、2位の比嘉一貴との差は8打にまで開いた。このまま蝉川の独走Vかと思われたが、9番ホールでトリプルボギーを叩き、比嘉がバーディを奪ったことで、その差が一気に4打縮まり潮目が変わる。17番パー3ではついに3打差まで迫っていた。
「17番でパーパットを打つ前にガチャガチャと大きな音がしたんです。普通なら『何やってんだよ!』と音のした方をにらんでもおかしくない。それだけ緊迫した場面でした。ところが彼は『大丈夫ですから、大丈夫ですから』とニコニコしていたんです」(上山カメラマン)
この2.5メートルのパーパットは無情にも外れボギー。18番ティイングエリアに立ったときには、比嘉との差はついに2打に。バーディ・ボギーで追いつかれる差となった。蝉川のニコニコを見て上山カメラマンが思い出したのは、ツアー通算48勝、賞金王を4度獲得したレジェンド、中嶋常幸。「何年前だったか、何の試合だったかも思い出せないんですが、中嶋さんがティイングエリアに入ったときに、赤ちゃんが急に泣き出したことがあったんです。すると中嶋さんは『ずっと泣かしておいて大丈夫だから』と笑顔で言いながらティショットを打った。その光景が浮かびました」。
蝉川の最終18番ではグリーン左からのバンカーショットが寄らずに、エッジから5メートルの長いパーパットが残っていた。比嘉がバーディパットを外して、ボギーでも優勝の場面だったが、これを沈めてミラクルセーブ。渾身のガッツポーズで喜びを爆発させた。そのタイガー・ウッズばりのド派手なパフォーマンスよりも、緊迫した場面で見せた笑顔に、上山カメラマンはスーパースターがまとう空気を感じとった。