高価な戦闘機に給油任務まで兼任させてきた空母航空団。専用の無人給油機の配備の導入により、戦力運用が大きく変わろうとしています。
効率的? 弊害の多かった戦闘機の空中給油機運用
アメリカ海軍の空母航空団は、長年にわたり一つの構造的な問題を抱えてきました。それはF/A-18E/F「スーパーホーネット」戦闘機に、空中給油機の役割まで担わせていることです。海軍はこの問題を解消し、空母航空団の作戦能力を根本から引き上げるべく、特殊な航空機の開発を進めています。それが、ボーイングMQ-25A「スティングレイ」無人艦上空中給油機です。
MQ-25Aの意義は有人戦闘機を給油任務から解放し、空母航空団全体の戦力運用を最適化するための、新たな航空戦力構想を具体化することです。
アメリカ海軍は以前、対潜哨戒機であったS-3B「バイキング」を空中給油機として活用していました。同機の退役後、その役割を引き継いだのがスーパーホーネットです。一つの機体に複数の任務を集約することは、運用機材を減らして補給や整備を効率化するという点では合理的と言えます。しかし、弊害の大きな判断でもありました。
スーパーホーネットは制空戦闘や精密攻撃を遂行するための高性能な戦闘機です。その機体は空中給油機としては“高性能”すぎ、燃費もよくありません。そもそも空中給油機として運用することで、本来の戦闘任務に投入できる機数が減少してしまいました。
戦闘機を本来の戦闘任務へ戻す
MQ-25Aは、こうした問題に対するアメリカ海軍の回答です。ボーイングが開発を担う同機は、艦上運用を前提に設計されており、空母航空団における給油任務を専任機へと切り離すことを目的としています。
その性能は母艦から500海里(約926km)進出した地点で、約7250kgの燃料を給油できることを目標としています。これは、4機のスーパーホーネット編隊の機内燃料を1/3満たす量に相当します。
給油任務を専任のMQ-25Aに移管することで、スーパーホーネットを本来の戦闘任務へ振り向けられます。これは航空機を一機追加する以上の効果をもたらします。空母航空団全体で見れば、限られた搭載機数のなかで、実際に攻撃や防空に従事できる航空機の割合を高められるためです。
さらに、運用単価の高い戦闘機の飛行時間を給油任務から解放することは、機体寿命の有効活用や整備負担の軽減にもつながり、限られた航空戦力をより合理的に運用可能となります。
空母航空団における無人機運用の先駆け
MQ-25Aの開発は、2026年4月25日に最初の運用型機が初飛行を実施したことで、大きな節目を迎えました。6月30日には空母「ニミッツ」に配備され、アメリカ海軍の空母航空団にとって最初の無人機となりました。9月には最初の量産契約3機分が締結されています。計画上の調達機数は76機であり、将来的には空母航空団への本格的な配備を目指します。
また、MQ-25Aの運用には、機体そのものだけでなく、無人航空機を指揮・管制する地上システムや艦上設備との統合が不可欠となります。空母の飛行甲板は、発着艦する有人機、整備員、甲板作業員が密集する極めて複雑な環境です。無人機を安全かつ確実に発着艦させ、限られた甲板面積のなかで効率よく取り扱うためには、機体の性能に加え、運用手順や管制システムの成熟が求められます。
その意味で、MQ-25Aは空中給油機であると同時に、アメリカ海軍空母航空団が有人機と無人機を一体的に運用するための先駆け的な存在でもあります。将来、無人機が偵察、電子戦、さらには攻撃任務へと活動領域を広げていく場合にも、MQ-25Aで培われる艦上運用や指揮統制の経験は重要な基盤となるでしょう。