ただの観光駅にあらず!「富士山駅」の深~い歴史 15年前まで別駅名…鉄道開業以前から続く“玄関口”の経緯

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「富士山駅」という大胆な駅名。実は鉄道開通のはるか昔から「富士山の玄関口」でした。その歴史と、本当に駅から山頂まで歩けるという事実を解説します。

「富士山駅」は昔から「富士山駅」ではなかった

 山梨県富士吉田市にある「富士山駅」。日本最高峰の名前をそのまま冠した大胆な駅名ですが、実はこの場所、鉄道が開通するはるか昔から「富士山の玄関口」でした。ところがその名前から、富士山観光のために造られた新しい駅と思うかもしれませんが、この駅が最初から「富士山」を名乗っていたわけではありません。

 駅が開業したのは1929(昭和4)年6月19日のこと。当時の駅名は所在地にちなんだ「富士吉田駅」で、大月から延伸してきた富士山麓電気鉄道の終着駅として誕生しました。その後、1950(昭和25)年に河口湖まで路線が延伸されますが、駅の構造から列車はここで進行方向を変えることになり、現在もスイッチバック式の駅となっています。

 そんな富士吉田駅が「富士山駅」へ改称されたのは、2011(平成23)年7月1日です。富士急行は前年の発表で、富士山の玄関口として国内外から観光客を呼び込み、富士山観光のターミナル駅としての機能を充実させることなどを改称の目的として説明。「富士山に一番近い鉄道」としてのイメージを強調する狙いもありました。改称日も富士山の山開きに合わせた7月1日となっています。

 この改称は、世界的に知られる「富士山」という名前を観光資源として生かしたものです。しかし、駅周辺の歴史をひも解いてみると、「富士山駅」という名前は決して伊達ではないことがわかります。この場所には鉄道が開通する何百年も前から、富士山を目指す人々が集まっていたからです。

駅ができる何百年も前から「富士山の玄関口」

 2026年現在、富士山は登山や観光の対象として広く親しまれています。しかし、かつての富士登山は現在とはかなり意味合いが異なりました。富士山は古くから信仰の対象とされ、山頂を目指すことも「登山」というより、信仰に基づいて山へ登る「登拝」という宗教的な行為として発展していきました。

 そうした富士山への登拝が盛んになるなか、登拝者と富士山信仰を結び付け、その旅を支える存在として発達したのが「御師(おし)」です。

 御師は各地から訪れる人々を自宅に泊め、食事を提供するほか、祈祷や登拝の準備などを行っていました。たんなる宿泊施設ではなく、富士山信仰と登拝者を結び付ける役割を担っていました。

 現在の富士山駅から南へ延びる上吉田地区には、こうした御師の家が集まった「御師町」が形成されました。14世紀後半には参詣者のための宿坊が現れ始め、江戸時代に富士山を信仰する「富士講」が関東を中心に盛んになると、多くの道者が上吉田を訪れるようになります。

 その面影は現在の町にも残されています。富士山駅から歩いて約5分の場所には、代々御師を務めてきた外川家の住宅が「御師 旧外川家住宅」として現存。さらに、その近くの道路をまたぐように建つ大きな鳥居が「金鳥居(かなどりい)」です。富士山信仰において、ここは俗界と富士山の神聖な領域を分ける境界とされてきました。

 かつての道者はこの御師町で宿泊して登拝の準備を整え、金鳥居をくぐって富士山へ向かいました。その先にある北口本宮冨士浅間神社を経て吉田口登山道へ入り、山頂を目指したのです。つまり現在の富士山駅周辺には、鉄道が開通するはるか以前から「各地から人が集まり、ここを出発点として富士山へ向かう」という人の流れが存在していました。

「富士山駅」から本当に山頂まで歩ける!

 1929年に開業した鉄道は、何もなかった場所に富士山の玄関口を作ったのではなく、古くから存在していた富士登山の拠点へ乗り入れてきたともいえるでしょう。

 しかも、富士山駅から続く「富士山への道」は、歴史の中だけに残っているわけではありません。現在でも、駅から御師町を抜け、北口本宮冨士浅間神社を経て吉田口登山道に入り、そのまま富士山頂まで歩いて行くことができます。

 現在の富士登山では、バスやクルマで標高約2300mの「富士スバルライン五合目」まで上がり、そこから山頂を目指すのが一般的です。1964(昭和39)年に富士スバルラインが開通したことで、麓から続く古い吉田口登山道を利用する登山者は減少しました。

 しかし、この道は今も現役です。富士吉田市は、この吉田口登山道を現在の富士山で唯一、麓から山頂まで歩いて登ることのできる道として紹介し、観光資源としてPRしています。つまり富士山駅は、単に「富士山」が駅名に入っているだけではないのです。列車を降り、かつての御師町を歩き、歴史ある登山道をたどって、本当に富士山頂まで行くことができます。

 2011年に誕生した「富士山駅」という名称は、富士山の玄関口であることを国内外に伝えるために付けられました。しかし、その足元には何百年にもわたって富士山を目指す人々を迎えてきた町があり、その先には今も山頂まで続く道があります。そう考えると、「富士山駅」という名前は決して伊達ではないのです。