記録的な豪雨の続発により、クルマの冠水被害が相次いでいます。一般的に「冠水車」とされるクルマの定義は何なのでしょうか。また、一度冠水したクルマを修理して再使用することは現実的に可能なのでしょうか。
「冠水車」か否か 基準は何?
2026年の夏期は、各地で記録的な大雨が降りました。千葉県を2度も襲った豪雨をはじめ、8月下旬には北陸で、9月上旬には愛知県でも豪雨を記録。ニュースなどでは、クルマや道路などが冠水した光景が報じられています。被害を受けられた皆さまには心よりお見舞いを申し上げるとともに、一日も早く生活が元通りになることを願っております。
さて、クルマを所有している人なら「どのくらいまで浸かったら冠水車と呼ばれるの?」という話題は気になることでしょう。また、車内も水浸しになってしまい、乗員の足下にちょっとした池ができるほど水に浸かってしまった車両でも、元通りに修理すれば使うことができるのでしょうか。筆者(坂上猛禽:ライター)もかつて整備士だったころ、ユーザーからこうした質問を受けたことがあります。
まず、冠水車の具体的な定義を説明すると、「大雨・洪水などにより、車体の床面以上まで水に浸かったクルマ」となります。日本自動車査定協会の基準でも、車内フロア以上に水が達したものや、その痕跡が残っている個体は冠水車に該当します。なお、一部ではこのような車両が「水没車」と表現されることもありますが、どちらも同じ意味であり、間違った用語ではありません。
ひとつの目安として、もしも冠水路などを走行している際に、ドアとボディの境目から水が徐々に車室内に侵入してくるようなら、それは定義上「冠水車」となります。タイヤの下部が少し浸かった、あるいは跳ねた水が下回りにかかった程度であれば、それは冠水車には含まれません。
修理は「現実的な選択ではない」
では、もしも愛車が冠水してしまったら、修理できるのでしょうか。筆者がもし整備士の目線で、お客さまにお答えするのであれば「理論上は可能だが、ほぼ現実的ではないので廃車、乗り換えをおすすめする」という回答になるでしょう。
まず定義として冠水車に当たる場合、何よりも疑わしく、危険な部位として気になるのがワイヤーハーネスの浸水です。“ワイヤー”ハーネスと言うだけあって、これは電気や信号をやりとりする電線を、セクションごとにひとつの束にまとめたもの。
現代のクルマはあらゆる部品の駆動や制御が電動化されています。人体でたとえるなら、核となるコントロールユニットが「頭脳」、実際に作動するポンプやバルブ類などが「手・足」になりますが、電気信号を伝えるワイヤーハーネスは、言わばクルマの「神経系」に相当する部位なのです。
他方、多くのワイヤーハーネスは「サイドシル」と呼ばれる、車体の側面部に這わせるような形で装着されています。一度冠水すれば、ハーネスも大体は水浸しになり、束ねた線の内部に水分が残ってしまいます。
ここで重要なのは、「水は電気を通す性質がある(=導電性が高い)」ということです。
ハーネス内部に残った水が、万が一コネクターまで伝ってしまうと電気短絡(ショート)が起きます。ショートするとそこから一気に大電流が流れるため、低抵抗の電線から発火する恐れがあります。そして束になった電線から出火すれば延焼し、最悪の場合、車両火災に繋がってしまうのです。
そういったリスクを避けるため、もし冠水車を修理する場合はワイヤーハーネスの交換が必須の作業に加わります。しかし前述の通り、ハーネスは神経系のようにクルマ全体に伸びて繋がれているため、脱着は容易ではありません。車種によっては、多くの時間と費用を要することでしょう。
加えて、冠水車は修理後も独特の悪臭が残るなど、車体側にさまざまな「後遺症」が残るケースが少なくありません。整備工場で直したとしても、水没に起因するトラブルが起きるかもしれず、「完全治癒した」とは言い切るのは難しいのです。中古車の売買で「冠水車」が要注意と言われるのは、こうした状況の深刻さを反映しているとも言えます。
つまり冠水車に乗り続けることは、リセール面でも致命的なダメージを背負いつつ、今後もいつ原因不明の故障が起きるかわからないという、大きな問題を抱え続けることなのです。
もし、これがクラシックカーや希少な高級車などであるなら、大金を積んででも修理する価値はあるかもしれません。しかし、背負うリスクに到底見合わないような状況や車種ならば、やはり修理するのは現実的ではないでしょう。その後の安心と安全を担保する観点からも、冠水した場合は廃車と乗り換えを強くおすすめします。