イタリアは「戦車を作らない」と決めた訳ではない? 国産へのこだわりより“現実”を選びつつ野心も見せる意外な理由

生保業界に起こるある変化とは?

ユーロサトリ2026で、イタリアの防衛企業レオナルドとドイツのラインメタルが共同開発する次世代主力戦車「NMBT」が公開されました。単独開発をイタリアが断念した意味とはどういったものなのでしょうか。

イタリアの次世代戦車はドイツ戦車がベース

 フランス・パリ近郊で2026年6月に開催された防衛装備展示会「ユーロサトリ2026」で、イタリアの防衛企業レオナルドとドイツのラインメタルが共同開発する次世代主力戦車「NMBT(New Main Battle Tank)」が公開されました。

 NMBTは、ラインメタルの次世代戦車KF51「パンター」をベースに、さらに発展させて開発される新型戦車で、イタリア陸軍が運用する主力戦車C1「アリエテ」の後継となる予定です。

 イタリアといえば、フェラーリやランボルギーニを生んだ自動車大国でもあります。防衛分野でも輸出向け戦車OF-40や、自国向け主力戦車を自主開発してきました。戦車を一から設計・生産できる数少ない国の一つでした。その国が、次世代戦車ではドイツ企業の戦車をベースにする――。一見すると、自国開発へのこだわりを捨てたようにも映ります。しかし、「イタリアは自前で戦車を開発できなくなった」という見方は少々早計です。

 NMBTは単なるライセンス生産ではなく、KF51をベースとしながら、レオナルドが得意とする電子機器や火器管制装置、各種センサー、ミッションシステムなどを統合し、イタリア独自仕様へ発展させることを前提としています。

 つまりイタリアが選んだのはベースから国産ではなくなったものの、自国の防衛産業の技術を生かしながら、開発の主導権と産業基盤を維持したまま、最短かつ最も現実的な方法で次世代戦車を実現するという戦略を選んだという訳です。

KF51をさらに進化させたイタリア仕様

 現代の主力戦車は、単に装甲や火力を競う兵器ではありません。アクティブ防護システム(APS)、AIを活用した情報処理、各種センサーの統合、ドローンとの連携など、多様な機能を一つのシステムとしてまとめ上げる必要があります。そのため、新型戦車をゼロから開発するには莫大な予算と長い開発期間が必要となり、失敗した場合のリスクも年々高まっています。

 また、現役の国産戦車C1アリエテの総生産数は約200両にとどまり、後継となる次世代戦車NMBTについても調達予定数は約130両と比較的小規模です。この程度の生産規模では、新規の車体や動力系を完全に国産開発することは開発費の回収が難しく、経済合理性に乏しいといえます。イタリアがレオパルト2をベースとするラインメタルの技術を活用し、自国製の電子機器や砲塔システムを組み合わせる方式を選択したのは、極めて合理的な判断だったのでしょう。

 イタリアは当初、ドイツのクラウス=マッファイ・ヴェクマンとフランスのネクスターシステムズが立ち上げた合弁会社のKNDSと協力し、ドイツのレオパルト2をベースとした新型戦車の導入・生産を検討していました。しかし、この計画は条件面などで折り合いがつかず、交渉はまとまりませんでした。

 そこで新たなパートナーとして選ばれたのが、ラインメタルの次世代戦車「KF51パンター」です。

 現地で関係者に取材したところ、展示車両はモックアップであり、NMBTはKF51パンターを基礎としながら、新しいシャシと新しい砲塔、より高出力のエンジンを採用した大幅な発展型になると説明されました。

具体的には防御性能の向上に加え、レオナルド製の同軸機銃や新世代オプトロニクス、C5I(指揮・統制・通信・コンピューター・戦闘システム)を採用するなど、電子システムも全面的に刷新されます。

 また、乗員は4人で、車長、砲手、操縦手に加え、ドローンや徘徊型弾薬(ロイタリング・ミュニション)の運用を担当する専門要員を配置する構成です。30km級の射程を持つ新型砲弾への対応も予定されるなど、従来の戦車という枠を超えた戦闘システムを目指していることがうかがえます。

 開発も順調に進んでいるようで、関係者は「2030年より前の就役を目指している」と説明しており、比較的短期間での実用化を視野に入れていることも明らかになりました。

主導権を確保し、イタリアの産業も守る選択

 NMBTは、新しい戦車を調達する計画であると同時に、イタリア防衛産業の将来を左右する国家プロジェクトでもあります。

 共同開発とはいえ、電子機器や火器管制装置、各種センサーなどイタリア企業が強みを持つ分野はレオナルドが担当します。さらに、レオナルドとラインメタルが設立した合弁会社では、生産・開発工程のおよそ60%をイタリア国内で担う計画となっており、防衛産業や雇用、技術基盤を国内に維持することも重視されています。

 つまり、国外企業のプラットフォームを採用する一方で、自国企業が開発の主体性を維持し、将来の発展や改良にも主導的に関われる体制を確保したのです。世界最先端の技術を取り込みながら、自国企業が開発の主導権を維持し、国内産業も守る――。イタリアが選んだのは「妥協」ではなく、防衛産業の競争力を維持するための実利を重視した戦略でした。

 さらに、NMBTはイタリア軍向けだけでなく海外市場への輸出も視野に入れています。欧州では多くの国が戦車更新の時期を迎えており、競争力のある新型戦車を共同開発できれば、防衛産業の維持や技術者の育成に加え、将来的な経済的メリットも期待できます。

 工業国としての誇りを守ることと、すべてを自国だけで開発することは、もはや同じ意味ではなくなっているのかもしれません。イタリアが選んだのは「国産」を諦めることではなく、世界の技術を取り込みながら、自国産業を守るという新しい選択でした。NMBTは、その象徴ともいえる存在なのです。