大河ドラマ「豊臣兄弟!」(NHK総合、毎週日曜午後8時~/BSプレミアム・BS4K、毎週日曜午後6時~ほか)で織田信長を演じる俳優の小栗旬(おぐり・しゅん/43)にインタビュー。「本能寺の変」の撮影舞台裏から、共演者から受け取った“ギフト”、自身の経験の蓄積がもたらす役者としての進化についてまで、率直に言葉を紡いでくれた。【インタビュー後編/※取材は4月に実施】
◆大河ドラマ「豊臣兄弟!」
大河ドラマ第65作目となる本作は、戦国時代のど真ん中、強い絆で天下統一という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡、夢と希望の下剋上サクセスストーリーを描く。主人公は天下人の弟・豊臣秀長。歴史にif(もしも)はないものの「秀長が長生きしていれば豊臣家の天下は安泰だった」とまで言わしめた天下一の補佐役・秀長の目線で戦国時代をダイナミックに描く波乱万丈のエンターテインメント。主人公・小一郎(のちの秀長)を仲野、その兄でのちに天下人となる秀吉を池松が演じる。
◆「本能寺の変」舞台裏 小栗旬がアドリブに込めた織田信長の本音
― 信長の生き方や人生の考え方において、小栗さんが共感できる部分とできない部分を教えてください。
小栗:信長はやりすぎなところがいっぱいあるので、現代を生きる自分からするとなかなか理解できないことの方が多いです。ただ、何かを破壊してでも新しい選択をする、といった部分には共感できます。信長という人がなぜここまで人々を魅了する人物なのかについて池松くんと話したとき、「GODはGenerate(創造)、Operate(維持)、Destroy(破壊)だという説がある」という話をしてくれて。信長のような“破壊神”がいて、秀吉が創造し、徳川家康が維持していったのではないかと。そして「昔から“破壊神”はすごく人気があるんですよね」と聞いて、非常に納得しました。自分ができないことをやる人に魅力を感じてしまうのは、そういうことなのかなと。信長は「自分が破壊するから、次の創造や維持はお前たちに任せる」という気持ちだったのではないでしょうか。本来、彼が思い描いていた世界からどんどん離れていってしまいそうになっている時に、それを軌道修正してくれる新たな考え方を持っているのが秀吉です。信長が去り、秀吉が台頭した時には、もう一度夢を見られるようになるのではないか、と信長自身も期待していたのだと思います。
また、信長はドラマの第25回の段階からすでに引退を考えていたのではないか、と僕は感じています。ただ、自分が引退したら誰にあとを任せられるんだろうと思っていたところ、第26回の秀吉と2人で話すシーンで「殿と一緒に新しい世の中を作りたい、そして人々を喜ばせたい」という言葉を聞いた時に「ここまで無理難題を言って嫌なことをさせても、まだ人を喜ばせたいと言っている彼になら任せられるかもしれない」という考えに辿り着く。だから、第27回で幻の明智光秀(要潤)が現れた瞬間に「お前じゃない」という言葉が出ました。もしかすると、この物語の中の信長は「もしも殺しに来たのが秀吉だったなら、喜んで死んだのに」と思っていたのではないか。自分の中でそういう解釈に至ったことは「豊臣兄弟!」の信長として、最初から最後まで1本筋が通ったなと思っています。
― 「お前じゃない」というセリフは脚本になかった?
小栗:脚本にはなくて、光秀と向き合った時に心の中から出た言葉です。もし目の前に秀吉が立っていて「あなたが死んでくれないと次の世の中が来ません」と言ってくれたなら、喜んで席を譲るとすら思えたはず。気難しい光秀だから許せないんですよね。「本当にお前じゃない」と(笑)。
◆小栗旬が考える「織田信長が本能寺で逃げられなかった理由」
― 信じたいと思う人から次々に裏切られて「本能寺の変」を迎えますが、脚本を読んだ時の第一印象と、そのような最期を迎えた信長の一生についてどのように感じましたか?
小栗:いろいろな史料や文献を読んでいると、信長は裏切られている回数が意外と多い人なんです。誰かに裏切られたら当然、疑心暗鬼になるだろうし、人を信じることが難しくなるところまで追い込まれてしまったんだろうなと思います。様々な裏切りを経験した上で迎えた「本能寺の変」では、秀吉が殺しに来てくれていたら信長の中では一番気持ちのいい人生の幕引きになれたと思うのですが、現実にはそうはなりません。今作は「兄弟」を大きなテーマとして描いているので、本能寺のシーンでは、義理ではあっても新たな兄弟関係を作れたかもしれない浅井長政(中島歩)や、実の弟の信勝(中沢元紀)が登場します。ただ、それらはすべて信長が自分で勝手に作り出した亡霊のようなもの。最後に死を覚悟した瞬間、自分の中にあったトラウマや、これまでの人生で清算したかったものが目の前に現れてきて「なんて俺は弱い存在だったんだろう」と突きつけられたのではないかと思います。ただ、僕個人の感情的な部分で言うと、最後に信勝から「我らの一生、ろくなものではござりませんでしたな」と言われるのですが、監督と相談して「お前はそう思っているかもしれないけど、俺は違う」「俺には未来を託せる人間が1人いるから、余裕で死んでいってやるよ」という気持ちで、あのラストを迎えたつもりです。
― 「本能寺の変」のシーンの具体的な撮影エピソードや、役作りのこだわりを改めて教えてください。
小栗:役作りに関しては、いろいろな史料を読んできた中で、“信長は逃げると決めたら逃げ足がものすごく早かった”という記述を目にしていたので、自分の中で「なぜ信長は本能寺で逃げきれなかったのか」ということがずっと疑問だったんです。そこで、自分なりに想像を巡らせて辿り着いた理由の一つが、もう疲れてしまったのではないか、ということでした。燃え尽き症候群ではないですが、これ以上逃げて、また走って行った先に一体何があるんだろうという終着点が見えてしまったのではないかと。仮に引退してのんびり余生を過ごすにしても、これまで恨みを買いまくっている以上、いつ誰に殺されるか分からないという不安の中で生き抜かなければならない。そう考えると、僕なりの解釈としては「もう疲れちゃったな」というのが一番の理由だったのではないかと思い、「そういう演出になったら嬉しいです」と提案しました。一度は必死に逃げようとしたけれどそれすらも諦めて、無様に死んでいくような形を取りたいと思っていたんですが、結果的には折衷案のような形にしていただきました。
また「本能寺の変」は、信長役の俳優にとって最後の見せ場になりがちだと思っていて。それが“俳優のエゴ”に見えてしまう気がします。僕はむしろあっさりと死んでいきたいという思いもありました。そういう意味では、この「豊臣兄弟!」という物語にしっかりと則った上で、秀吉たちに対するメッセージを残して散っていくことができた。それは、今回の作品ならではの「本能寺の変」の描写になったのではないかと思います。
今回「本能寺の変」の場面の最後のほうはロケで撮影したのですが、「今回の本能寺はここが違う!」と言うとしたら、ロケで本火を使ったという点が一番大きいです。本物の火に囲まれていると、やはり映像としての迫力や画が全然違いました。
◆小栗旬、共演者から受け取った“ギフト” 経験の蓄積を活かした進化「自分を俳優として逞しくしてくれている」
― 「本能寺の変」の撮影を終えられて、改めて感じた今作での信長の魅力や、従来の信長像との違いについて教えてください。
小栗:今回、視聴者の方から「すごく人間味のある信長になっている」という感想をいただきました。僕が思う信長は、“織田信長という偉大な人物を演じてきた人”なんです。信長という存在が大きくなっていった先に「こうでなければいけない」という姿を、自分の中で作り出してしまったのではないかなと。脚本上でもそういうふうに描いてくださっていたので、自分の中で腑に落ちた状態で演じられたのは、すごく大きなことでした。
― 今作を通して、役者としての新たな発見や、ご自身の演技で手応えを感じた部分はありますか?
小栗:共演者のみなさんに引き出してもらったものが多いです。僕たちが作る作品はどうあってもコミュニケーションの上に成り立っているものですし、目の前にいる俳優さんから受け取るものがすべてだったりする。僕たち俳優の間ではそれを“ギフト”と表現することもあるのですが、もし僕の演じる信長が魅力的に映っているのだとしたら、それは周囲の俳優さんがたくさんの“ギフト”をくれたことが大いに影響していると思います。特に太賀くんや池松くんとお芝居をしていると、心が震える瞬間がたくさんあって「信長として、この震えた心にそのまま反応していいのか、押し殺すべきなのか」という選択が自分の中にありました。彼らの味方として、感情をどんどん震わせながら一緒に演じられたらいいだろうなと思いましたし、豊臣の家臣団を見ていると「この2人だからついていきたいんだ」という熱いお芝居ができて、きっと気持ちいいだろうなと、少し羨ましかったです(笑)。
あとは、以前大河ドラマの主演(「鎌倉殿の13人」)を経験させていただいたことが、確実に自分の血肉となり、大きな経験値となっています。こうして改めて別の時代劇に参加した時に、当時の経験を活かせている部分がたしかにあるなと。その蓄積こそが、また自分を俳優として逞しくしてくれているのではないかと感じています。
― 素敵なお話をありがとうございました。
(modelpress編集部)
◆小栗旬(おぐり・しゅん)プロフィール
1982年12月26日生まれ、東京都出身。ドラマ「GTO」(カンテレ/1998)で連続ドラマに初めてレギュラー出演し、その後もドラマ、映画、舞台と様々な作品で存在感を見せる。近年の主な主演作は、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(NHK/2022)、ドラマ「匿名の恋人たち」(Netflix/2025)、「ガス人間」(Netflix/2026)、映画「フロントライン」(2025)など。待機作に、映画「キングダム 魂の決戦」(7月17日公開)、「バッド・ルーテナント:トウキョウ」(2026年公開)がある。