
株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、下町にある甘味処で抹茶を飲みながら投資談義を行っています。
T:先日は驚きました。8月5日の株式市場は激しい値動きが見られました。日経平均株価は終値が4,400円を超える急落で過去最大の下落幅となりました。
神様:株価調整の背景には、7月に入ってからの急ピッチな上昇に対する短期的な過熱感の解消、為替相場における行き過ぎた円安の流れが修正されたことなどが意識されたようです。当面の株式市場では、為替の変動を映した相場展開となるかもしれません。鈴木財務大臣が5日の会見で述べていましたが、新NISAで投資を始めた人は特に、長期・積立・分散投資の重要性を考慮することが大切です。目先の株価に一喜一憂するのではなく、未来の日本や世界を見据え、長期的な投資を行う姿勢を身につけましょう。
T:おっしゃる通りですね。
神様:さて、今日は自動車保険についてお話しましょう。損害保険算出機構は6月末、自動車保険の純保険料率を平均5.7%引き上げる改定を行い、金融庁長官に受領されました。純保険料率とは、事故発生時に保険会社から支払う保険金に充てられる参考値です。会員保険会社は、自社の保険料率を算出する際の基礎として、参考純率を使用することができます。
T:つまり、純保険料率が引き上げられるということは、保険会社の保険料率も引き上げられる可能性があるということですね。
神様:その通りです。今回の純保険料率引き上げが損保各社の保険料に反映するのは2026年以降です。実は、損保各社の自動車保険は2025年に値上げが見込まれています。2024年1月にも値上げされており、自動車保険料の値上げはこれで3年連続となる見込みです。
T:なんと、今年、来年含めて3年連続の値上げですか。一体なぜでしょうか?
神様:損害保険算出機構によれば、一つは自動車の保険金支払い1件あたりの修理費が増加していることが挙げられます。ヘッドランプのLED化、フロントガラスに使用される断熱・遮音等の機能性ガラスの普及、バンパーにセンサー等が搭載されるなど、数年前と比較して自動車の部品点数が増加し、パーツの高級化が進んでいます。

T:そうすると、例えば自動車が事故を起こしたとき、車を修理する費用が高くなりますよね。事故などで支払われる1件あたりの保険金も、高くなっているということでしょうか?
神様:おっしゃる通りです。その他、物価高騰の影響や人手不足等による賃金上昇も保険金の増加傾向に拍車をかけている要因となっています。
T:なるほど。ところで、交通事故の件数は増えているのですか?
神様:日本国内における交通事故や負傷者の数は、実は減少傾向にあります。2004年度の交通事故件数は952,720件、負傷者数は1,183,617人でしたが、2023年度の交通事故件数は307,930件、負傷者数は365,595人に減少しました。これも自動車の高性能化のおかげと言えるでしょう。特に、先進運転支援システム(ADAS)が重大事故の減少に一定の効果を与えています。

T:事故が減少するのは良いことですが、それでも保険料率を引き上げざるを得ないのですね。
神様:純保険料率引き上げの背景の一つとして、直近の保険統計におけるリスク実態を反映したことが挙げられます。その他、自動運転車が普及した社会を見据えた補償の拡充や、電動キックボードなどに対応した「道路交通法の一部を改正する法律」の施行などへの対応も背景にあり、単純に事故が減っているから保険料率を引き下げられるわけではありません。詳細は損害保険算出機構の案内資料を見てみると良いでしょう。
T:なるほど。背景を詳しく見ると、将来の日本の交通事情を見据えた対応であることがわかりますね。
神様:一方で、この純保険料率はあくまで参考値であり、保険料については各保険会社が決めることができます。純保険料率の他に、保険会社が保険事業を行うために充てられる付加保険料率がありますが、これは各保険会社が独自に算出します。つまり、自動車保険の値上げは、関連企業においては収益性が向上するきっかけとなる可能性があると言えます。
T:確かにそうですね。自動車は、自動運転などこれから大きな変革を迎えようとしています。損保など関連企業の今後の動向に注目したいと思います。
(この項終わり。次回8/21掲載予定)
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