第383話 「2025年の崖」迫る 企業でIT投資活発化が進む

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、海の見えるカフェで投資談義を行っています。


T:1月11日、日経平均株価は1990年2月以来、33年11カ月ぶりに3万5,000円を上回りました。新NISAがスタートした直後ということもあり、株価の動向により注目が集まりそうですね。

神様:東証でも改革が進んでいます。日本経済新聞社は、東証プライム市場に2022年末時点で上場し、直近までデータを続けて取れる1,800社を対象に、株価純資産倍率(PBR)1倍割れの企業を調査しました。PBRとは、株価を1株あたり純資産で割った指標です。PBR1倍割れは理論上、株式価値よりも解散価値の方が高いということになります。対象企業のうち、1月9日現在でPBR1倍を回復した企業が169社に上りました。自己資本利益率(ROE)の目標の開示や強化、株主還元の上積み、成長戦略を示すことで、PBRの改善につながったところもあるようです。今後の各企業の動向に注目しましょう。

T:1月15日には、東証が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」の要請に基づき、対応状況を開示している企業の一覧表を公表しました。毎月更新されていくようです。こちらも注目ですね。

神様:これを契機に企業価値向上への取り組みが加速し、グローバルでみた東京株式市場の相対的な魅力の向上に期待したいと思います。さて、各企業でDXの取り組みが進んでいるところですが、いよいよ「2025年の崖」が迫っています。各企業のIT投資も活発化していくと見られます。Tさんは「2025年の崖」とは何か、覚えていますか?

T:はい。2018年に経済産業省が公表した「DXレポート」において指摘されている問題です。企業の既存システムが複雑化・ブラックボックス化しており、DXを推進するに当たってネックとなっています。もし放置したままでいれば、2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある、という問題ですね。

神様:その通りです。DXを実現しなければ、世界で激化しているデジタル競争で敗者となり、企業の衰退につながっていくでしょう。先日も日本のIT人材不足(第379話 日本のDX人材不足を解消するには?貢献できる企業とは?)について触れましたが、レガシーシステムと言われる、老朽化した基幹システムはシステム維持管理費も高額化し、大きな課題となっています。

T:独SAPの既存製品へのサポートが2027年に終了する「2027年問題」(第336話 DXを後押し 日本の企業2000社に迫る「2027年問題」とは?)も対処すべき課題ですね。

神様:経産省は、2020年に「DXレポート」の続編として「DXレポート2」を公表しています。「DXレポート」によるメッセージが正しく伝わらず、ほとんどの企業でDXに取り組めていないことが指摘されており、コロナ禍によるデジタル化の加速でテレワークをはじめとした社内ITインフラなど、柔軟に対応できた企業とそうでない企業の差が拡大しているとのことです。2022年度の既存ITシステムの利用状況を見ても、「半分以上レガシーシステムが残っている」企業の割合は、米国で22.8%に対して日本で41.2%です。依然として日本企業におけるレガシー刷新が遅れていることがわかります。

T:危機的な状況ですね。

神様:一方で、日銀が2023年12月に発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)によると、2023年度のソフトウェア投資額は大企業製造業が前年度比で11.3%増、中堅企業製造業では前年度比で16.6%増の計画であり、増加傾向であることがわかります。

T:今年以降は老朽化したシステムの刷新が進み、IT投資額も増加することが見込まれる、ということですね。

神様:そうなることを期待しましょう。ただし、認識していただきたいのは、レガシーシステムを刷新すればDXなのではない、ということです。「DXレポート」ではDXの定義について、「“企業が外部エコシステム(顧客、市場)の破壊的な変化に対応しつつ、内部エコシステム(組織、文化、従業員)の変革を牽引しながら、第3のプラットフォーム(クラウド、モビリティ、ビッグデータ/アナリティクス、ソーシャル技術)を利用して、新しい製品やサービス、新しいビジネス・モデルを通して、ネットとリアルの両面での顧客エクスペリエンスの変革を図ることで価値を創出し、競争上の優位性を確立すること”」と、しています。DX化により新たな価値を創出する企業が多くでることを願います。

T:システムの新旧に関わらず、どの企業においてもDXに取り組めているかを確認したいところですね。

(この項終わり。次回1/31掲載予定)

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