第379話 日本のDX人材不足を解消するには?貢献できる企業とは?

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、都内ホテルのラウンジで投資談義を行っています。


神様:今日は、日本のDX(デジタルトランスフォーメーション)人材はいまだ不足しているということを、IPA(情報処理推進機構)が発行する「DX白書2023」を見ながらお話しましょう。

T:「DX白書」というものがあるのですか?初めて聞きました。面白そうですね。

神様:最初にDXの市場規模を見てみましょう。電子情報技術産業協会(JEITA)の調査によると、2022年度のDX関連ソリューションビジネスの市場規模は、前年度比で15.4%増となる1兆9,619億円に成長しました。官公需要と比べて、製造業、金融業や流通業などを中心とした民間需要が大きく伸びていることが示されています。

T:DXへの取り組みは着実に拡大していると見ていいでしょうね。

神様:そうですね。DXへの取り組み状況に関する調査では、「DXに取り組んでいない」と回答した企業の割合は減少しています。2021年度は33.9%でしたが、2022年度には29.1%まで低下しています。しかし、DX先進国の米国では2022年度で10.6%まで低下していることを考えると、日本での取り組みはまだこれから拡大していくことが予想されます。

T:大企業では積極的に取り組んでいる企業は多いでしょうが、中小企業ではどうでしょうか?依然としてDXに取り組めていない企業が多いのではないでしょうか?

神様:おっしゃる通りです。総務省によれば、大企業の4割強がDXに取り組んでいるのに対して、中小企業では「予算の確保が難しい」「人材がいない」などの理由で取組企業は1割強にとどまっていることがわかっています。

T:人材が不足しているのはわかるのですが、そもそも「DX人材」とはどういった人材なのでしょうか?最先端の技術に取り組めるITエンジニアが各企業にいれば良いのですか?

神様:いい質問ですね。ただエンジニアがいればいいわけではありませんよ。IPAでは、日本企業がDXを推進する人材を十分に確保できていない背景として、自社のDXの方向性を描くことや自社にとって必要な人材を把握することの難しさに課題があると考えているようです。IPAではDXを推進していくに当たって「デジタルスキル標準」を定めています。DX人材を「ビジネスアーキテクト」「データサイエンティスト」「デザイナー」「ソフトウェアエンジニア」「サイバーセキュリティ」の5つの人材類型として区分し、それぞれの役割を定めています。

T:なるほど。しかし、現役世代がスキルを身につけていくのには時間がかかりそうですね。

神様:おっしゃる通りです。DXを推進する人材の「量」の確保状況について見てみましょう。人材について「不足している」と回答した企業の割合は、2021年度は84.8%、2022年度は83.5%とほとんど改善していません。一方、米国では2021年度が46.6%、2022年度は22.6%と改善傾向が見られます。特にDX人材が「大幅に不足している」と回答した企業は、米国では2022年度に3.3%まで減少したのに対し、日本では49.6%と逆に増加しています。

T:つまり、日本ではDX人材不足がいっそう深刻になっているということですね。米国ではどのように人材育成をしているのでしょうか?

神様:人材の育成方法についての調査を見ると、米国では「DX案件を通じたOJTプログラム」が6割を超えています。他にDX推進リーダー研修やデジタル技術研修、資格取得の支援などの施策もそれぞれ3割から4割程度の企業で実施されていることがわかります。日本はいずれの施策においても「実施・支援なし」との回答が4割から7割程度あり、人材を育てる環境が整っていないことがわかります。

T:DXが重要であることはわかりますが、人材が育つ土壌・環境がなければ難しいですよね。未経験の人材であっても、OJTなどを通して経験を積むことができ、社内・社外の研修で学び生かすことができれば戦力になるわけですよね。そういったノウハウがない企業が多いのでしょうね。

神様:自社でIT人材を確保することが難しい企業は多いでしょう。そのため、DX業務のアウトソーシングやIT人材の派遣などが必要となりますし、今後のニーズは強いと考えられます。Tさんがおっしゃったように、社内などで人材を育成できる環境を整えていくことも必要です。育成を支援できる企業の役割も重要なものとなるでしょう。

(この項終わり。次回12/27掲載予定)

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