第377話 半導体サプライチェーンの強靭化進む 日本が受ける恩恵とは?

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、都内の喫茶店でコーヒーを飲みながら投資談義を行っています。


神様:先日、2023年の半導体市場がマイナス成長になる、とお話したことを覚えていますか?

T:はい。WSTS(世界半導体市場統計)によると、2022年の世界の半導体市場は前年比で3.3%増となりましたが、2023年は前年比で10.3%減と、2019年以来4年ぶりのマイナス成長(第372話 2023年はマイナス成長へ 世界の半導体市場動向を見る)になると予測されている、とのお話でした。

神様:それですが、11月28日にWSTSによる最新の予測である「2023年秋季半導体市場予測」が公表されました。

T:そうですか。何か変化がありましたか?

神様:結論から言いますと、全体的に上方修正されています。2023年のマイナス成長の予測は変わりませんが、前年比で9.4%減と減少幅が縮小されています。2024年については、前年比で13.1%増とプラス幅が拡大しています。

T:なるほど。しかし、ロシアのウクライナ侵攻は継続しており、中東情勢も不安定です。最近は北朝鮮によるミサイル発射もあり、まだまだ不安はありますね。

神様:WSTSでは、生成AIの急拡大(第361話 世界の生成AI市場、1兆ドル超に成長へ 日本のAI企業に期待すること)により需要が回復していると見ています。さらに、パワーディスクリート半導体の安定的な成長や年後半からの景気回復への期待により、電子機器全体の需要拡大を見込んでいます。

T:やはり生成AIですか。2024年は半導体市場にとって、さらに明るい兆しが見えそうですね。

神様:さて、11月29日には政府の今年度の補正予算が成立しました。このニュースも半導体市場に大いに関係があるものです。

T:確かに。報道では国内での半導体の生産や次世代半導体の開発などを支援する目的で、約1.9兆円もの予算を当てることが話題となっていました。

神様:経産省の令和5年度補正予算案の概要を見ると、物価高から国民を守ること、地方の中堅・中小企業の賃上げなどのほかに、半導体などの重要物資のサプライチェーンの強靭化を図るための予算が大きく確保されていることがわかります。これは、コロナ禍での半導体市場の混乱からの反省を踏まえたものです。コロナ禍では、半導体のサプライチェーンが混乱し、多種多様な製品生産へ大きな影響が出ました。半導体生産について、特定の企業・地域に生産が偏っていたためにこのような事態に陥ったと推測されます。特定企業への生産集約は経済合理性が高いですが、有事の際には川下の生産面への影響が出やすくなる欠点があります。世界的に自国・自地域の生産へ回帰する動きが活発化している状況です。

T:経済安全保障ですね。最近では熊本県に台湾の半導体企業TSMCが工場建設を行っています。こちらは2024年末から本格稼働するそうですね。

神様:経産省によれば、熊本を始めとする九州では、関連産業の投資の拡大、人材育成のための連携、賃金の向上など、工場誘致による好循環が生まれ始めています。今後はこの動きを全国の他の地域にも展開できるかにも注目しましょう。また、日本政策投資銀行によれば、2023年度の資本金10億円以上の大企業による国内設備投資は、前年度比で20.7%増の20.61兆円と計画されています。半導体、半導体材料の開発や増産、EVへの国内生産拠点を強化する動きがそのけん引役となっています。

T:生成AIを中心とした新たな事業拡大と、経済安全保障の観点からの国内サプライチェーンの強靭化により、今後も国内での生産拠点を強化していく動きが続くということですね。

神様:その通りです。それによって、例えば半導体工場建設に関連するメーカーには、先行して恩恵を受けることも予想されます。半導体市場が回復し拡大していく中で、今後予想される好循環に注目していきましょう。

(この項終わり。次回12/13掲載予定)

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