第373話 世界で加速するEVシフト 「パワー半導体」の市場拡大に期待

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、公園を散歩しながら投資談義を行っています。


神様:さて、この前と同じ半導体のお話をしましょう。現在、自動車業界ではEVシフトと呼ばれる電動自動車(EV)のシェアの拡大が進んでいます。半導体市場では、EVで重要な役割を果たすパワー半導体の市場拡大が期待されています。

T:パワー半導体は、半導体における日本の強みですから、日本の関連企業の活躍が大いに期待されますね。

神様:最新の調査データを見てみましょう。矢野経済研究所によると、世界自動車販売台数に占める電動自動車(EV)の比率は、2035年には45%(コンサバティブ予測)から66%(アグレッシブ予測)まで進むと予測されています。電動車には、HEV(ハイブリッド車)、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(電気自動車)、FCEV(燃料電池車)を含んでいます。最も注目されるのはBEV、つまりバッテリーで動く電気自動車です。

T:コンサバティブ予測とアグレッシブ予測の違いは何でしょうか?

神様:様々な要因がありますが、コンサバティブ予測ではBEVが高級セグメント車や小型商用車まで限定的に普及が進むことを想定しています。一方でアグレッシブ予測では、急速充電などインフラ整備が整うことで、車格を問わずBEVの普及が進む想定です。また、技術面の進歩、バッテリーなどのコストの変動や資源価格の影響なども普及スピードに影響を与えるでしょう。

T:インフラ環境整備の進捗によって普及の進み具合が変わってくるということですね。そう言えば、昨年も自動車販売の中でBEVのシェア予測のお話がありましたね(第328話 EVは普及期へ 日本の強み「パワー半導体」に注目)。その時は、2035年のシェア予測は20%弱(コンサバティブ予測)から30%強(アグレッシブ予測)でした。わずか1年でEVのシェア予測が大きく伸びていますね。

神様:世界各国でカーボンニュートラルの実現に向けてCO2規制が進んでいます。自動車向けのCO2規制(第338話 ”GXの要”拡大するEV 世界で需要急伸が期待されるモノとは?)も進んでおり、各国で普及に向けた開発が加速していることが予測に影響したのでしょう。

T:その点なのですが、EUで少し気になる動きがあったように記憶しています。報道によれば、2035年以降でも二酸化炭素を排出するエンジン車を認めるのですよね?

神様:EUは今年、2035年までにガソリン車などの内燃機関車の販売を事実上禁止することで合意しました。しかし「合成燃料」の利用に限り販売を認めることとしています。

T:合成燃料とは何でしょうか?

神様:合成燃料とは、二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原材料として製造される代替燃料です。化石燃料とは異なり、大気中の二酸化炭素を増やすことがありません。カーボンニュートラルな燃料とも言われています。

T:なるほど。二酸化炭素を排出しても増やさないからOKということですか。

神様:しかし、コスト面などこれから対応すべき課題も多く、合成燃料を利用できたとしてもCO2排出規制の強化が世界のEVシフトを加速していく大きな流れは変わらないでしょう。

T:今後の動向を注視したいと思います。

神様:パワー半導体の世界市場規模予測では、2025年から2030年にかけて大きく伸びることが予測されています。特に、炭化ケイ素を原材料とする高性能なSiCパワー半導体の活用が増えていくと見込まれており、BEVの軽量化やコスト低下にも貢献できる可能性があります。

T:日本のパワー半導体メーカーの腕の見せ所ですね。

神様:半導体メーカーだけでなく、半導体の素材や製造装置を手掛ける企業にも注目しましょう。EVの市場拡大に伴う今後のビジネスチャンスに期待したいところです。

(この項終わり。次回11/15掲載予定)

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