第370話 転職希望者1000万人に 30代から50代で増加・求人倍率も上昇

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、都内にある喫茶店でコーヒーを飲みながら投資談義を行っています。


神様:最近、転職市場が賑わいを見せているようです。総務省統計局は毎月「労働力調査」を行っていますが、今日は2022年の結果を見てみましょう。

T:労働力調査は、日本の就業者数、完全失業率や非労働力人口などがわかる調査ですよね。

神様:はい。調査は毎月約4万世帯に対して調査票を配布して行われます。調査票にはその他にも、現在の仕事の内容、1週間に仕事をした時間や転職希望の有無などもあり、国民の労働の状況が詳しく調査されます。

T:2022年ですとコロナ禍の長いトンネルからようやく脱け出しつつある時期です。一方で、多くの業界では人手不足が深刻な状況です。経済活動が活発化するにつれて、売り手市場の状況が表れている、と考えられますね。

神様:おっしゃる通りです。2022年から現在にかけて転職市場は希望者が年々増加しており、求人倍率も上昇を続けています。まさに売り手市場と言えます。人手不足であるだけでなく、産業構造の複雑化によって企業が様々なスキルを持つ人材を確保したいと考えており、市場には企業のニーズも反映されています。

T:なるほど。スキルの多様化ですね。

神様:2022年の労働力調査によれば、2022年の転職等希望者数は2021年と比較して7.9%増となる968万人となりました。

T:ほぼ1000万人が転職を希望しているのですね。これは、現在仕事をしているが転職をしたいと考えている人たちでしょうか?

神様:その通りです。転職等の希望の有無は調査票で仕事をしていると回答した人に対して尋ねられるものです。希望者は2021年から約71万人増加したのですが、年齢別に見てみると25~34歳の比較的若い年代に加えて45~54歳のベテランでも増えていることがわかりました。2021年と比較して男女別でより詳しく見ると、特に増加が顕著なのは45~54歳男性の16万人、35~44歳男性の12万人、そして25~34歳女性の10万人です。

T:若い人たちの転職希望が多いのは予想できましたが、2022年はキャリアを積んできた中堅の人たちが転職を希望しているのですね。言わば「ハイクラス転職」の希望が増えているのですね。

神様:民間の転職求人数も見てみましょう。こちらも増加傾向が続いています。転職情報サイト「doda」によれば、2023年8月の「doda転職求人倍率」は2022年8月と比べて0.1ポイント上昇となる2.38倍となりました。これは、dodaの転職希望者数1人につき2.38件の求人数(採用予定人員)があることを意味します。現在、有効求人倍率は緩やかに上昇しています。「doda転職求人倍率」の伸びはそれを上回って伸びていますから、転職者を採用したい企業のニーズが高まっていることがわかります。

T:なるほど。ちなみに有効求人倍率は、公共職業安定所(ハローワーク)で取り扱う求職者数に対する求人数の割合ですね。2022年以降、転職求人数が右肩上がりに伸び続けていますから、転職関連市場の拡大と関連ビジネスを手掛ける企業のチャンスが期待できますね。

神様:「doda」の中で、求人倍率が圧倒的に高いのはIT・通信のエンジニアです。また求人倍率が伸びている職種においても、業務のデジタル化やDX化を推進するニーズの高まりが指摘されています。

T:リスキリングと呼ばれる、新しい職業に就くためのスキルの獲得や学び直しが注目されています。デジタル化やデータの扱い、情報リテラシーなど、これからのビジネスに対応するためにこれまでやってきた仕事の方法を変えていかなければ、という意識は多くの現役世代が持っていると思います。ひょっとしたら転職希望の増加にもその影響が表れているのではないでしょうか。転職を支えるサービスだけでなく、新しいスキルの獲得の支援や学び直しの支援にも今後大きなニーズがありそうな気がします。

神様:なるほど。人材不足と雇用の流動化により転職者の割合は増加していますが、確かに転職希望者の動機をより詳しく調べてみると面白い事実が見つかるかもしれませんね。

(この項終わり。次回10/25掲載予定)

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