第363話 2030年代で運転目指す 次世代型原子力発電に熱い期待

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、下町の甘味処で水出し茶を飲みながら投資談義を行っています。


T:今年の夏は暑すぎです。東京は8月20日の時点で35℃以上の猛暑日が21日間になり、年間の猛暑日の最多日数を更新しました。8月23日には北海道・札幌市で36.3℃を記録し、観測史上最高気温を更新しました。

神様:日本だけでなく、世界各国で猛烈な暑さが観測されています。世界は地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの排出抑制に取り組んでいますが、すぐに改善するものではありません。私たちは、取り組むべきことに地道に取り組んでいくしかありません。

T:それから、昨今のエネルギー価格高騰に見られるエネルギー危機への対応も重要ですね。

神様:ここでもう一度エネルギー政策について整理しておきましょう。政府は、2050年に温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」の実現を目指しています。2021年度の日本の温室効果ガス排出量を見ると、84%がエネルギー起源のCO2で、そのうち電力分は37.6%を占めています。日本の電源構成比を見ると、2021年度では火力発電が70%を占めています。化石燃料の比率が高く、石炭、石油、LNG(液化天然ガス)を輸入に依存している状況です。

T:日本のエネルギー自給率は低いですよね。

神様:2020年度の日本のエネルギー自給率は11.3%であり、OECD諸国の中でも非常に低い水準です。

T:2019年度の日本のエネルギー自給率は12.1%(第318話 脱炭素エネルギーの柱へ 「次世代原子力発電」とは?)でしたよね?2020年度はさらに下がったのですね。

神様:2010年には20%以上ありましたが、年々低下の一途をたどっていました。実は、2021年度のエネルギー自給率は前年度から増加して13.3%となり、東日本大震災後では最高となりました。

T:増加した要因は何でしょうか?

神様:2021年度の発電電力量の構成を見ると、再エネなど非化石電源の割合が増加し、火力が減少しています。また、原子力が増加し、エネルギー自給率の増加に寄与しています。カーボンニュートラルの実現にとって、原子力発電の活用は重要です。政府の方針では、原子力の電源構成比率を2030年に20~22%まで高めることとしています。それによって、エネルギー自給率の向上に寄与するだけでなく、出力が変動して安定しない再生可能エネルギーとの電力需給バランスの調整の役割も期待されています。

T:しかし震災以降、原発への反対意見は根強く、国民の理解が必要ですね。

神様:福島第一原発事故の反省などを踏まえ、原子力発電においては新たな規制基準が施行され、原子力規制委員会によって審査されています。7月28日には福井県の高浜原子力発電所1号機が12年ぶりに再稼働しました。今後は、より使いやすくて安全な「次世代型原子力発電」の導入が図られます。

T:次世代型原子力発電はいつから運用できるのでしょうか?

神様:政府は、2030年代から次世代型原発の運転を開始することを目標に、開発を進めています。しかしあくまで目標です。研究開発がうまく行っても、運転のためには立地地域の理解も必要です。地震・津波などの自然災害やテロ対策などの安全性の向上が追求されていますが、より安全であることをいかに説明できるかも重要です。

T:あと10年以上かかるわけですし、その間にも猛暑など気候変動の影響はより大きくなっているかもしれません。その状況の中で必要な政策であることがきちんと説明されると良いですね。

神様:次世代型原子力発電には、日本のメーカーが深く関わっています。GX(グリーントランスフォーメーション)の要であり、エネルギー政策の切り札として期待されている次世代原発を成功させ、国内や海外で導入を進めることが、日本の企業にも大きなビジネスチャンスをもたらすことになるでしょう。

T:日本の技術力で、地球温暖化に歯止めをかけるチャンスですね。しかしまずは、目の前の暑さ対策もしっかり行っていきましょうね。

(この項終わり。次回9/6掲載予定)

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