第361話 世界の生成AI市場、1兆ドル超に成長へ 日本のAI企業に期待すること

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、コーヒーの香りが心地よい都内の喫茶店で投資談義を行っています。


T:最近、巷で「生成AI」という言葉をよく聞きます。漠然とですが、ChatGPTのようなAIだと理解しているのですが、実際に「生成AI」とは何なのでしょうか?

神様:実は生成AIについての厳密な定義はありません。

T:え、そうなのですか?では、これまでのAIとの違いは何でしょうか?

神様:どちらもAIであり、はっきりと分けられるものではないと思います。人工知能(AI)は多くのデータを学習し、計算によって最適な解を見つけ出そうとします。従来は、情報の特定や予測を目的として用いられていましたが、生成AIでは情報を創造することを目的にしているように思えます。文章や画像を新しく作るように、様々なコンテンツを生成できるAIのことを「生成AI」と呼んでいるのでしょう。

T:なるほど。新しいコンテンツを生成するから生成AIなのですね。

神様:また、米OpenAIの「ChatGPT」やGoogleの「Bard」は、私たちのような一般の消費者が手軽に使えることも魅力です。Bloomberg Intelligenceによると、そういった消費者向け人工知能(AI)ツールが牽引することで、世界の生成AI市場は2032年には1兆3,000億ドルへ達するとみられています。2022年の市場規模は400億ドルですから、実に32.5倍の水準となります。

T:日本でも、米マイクロソフト社が政府へChatGPTを提供することが報道され話題となるなど、政府・自治体や民間企業で様々な試みが始まっているようです。これから続々と新しい生成AIサービスが開発され、世に出ていくのでしょうね。

神様:OpenAIと米ペンシルベニア大学の研究によれば、ChatGPTの導入によって米国の労働者の80%が、自分の仕事の10%に影響を受ける可能性があると考えているようです。10年後には生成AIが今よりもっと身近な存在となっているでしょう。しかし一方で、生成AIの開発やサービスの提供となると、日本は世界の中で後塵を拝しています。米スタンフォード大学による「新たに資金調達を受けた世界のAI企業数」によると、2022年に資金調達を受けた国別企業数でトップは米国の542社でした。2位は中国、3位は英国、その後はイスラエル、インドと続きます。

T:日本は何位でしょうか?

神様:日本はわずかに32社で、10位でした。

T:「デジタルツイン」技術(第360話 日本は導入遅れも 世界市場拡大する「デジタルツイン」とは?)の導入でも触れましたが、日本はやはりITの最新技術の開発・活用において世界におくれを取っていますね。一体なぜなのでしょうか?

神様:様々な要因があると思います。総務省の令和3年度情報通信白書では、日本のデジタル化が進んでいない理由として、「情報セキュリティやプライバシー漏えいへの不安」が多く、その他「利用する人のリテラシーの不足」、「デジタルでの業務利活用が不十分」などが挙げられています。

T:確かに、これまで行ってきた仕事のやり方を急に変えて、デジタルを活用した方法に変更することはなかなか難しいことですからね。

神様:しかし、難しいと言っていては何も進みません。

T:例えばデジタル庁を中心に進められているマイナンバーカードについて、現在様々な問題が露出しています。世間からの批判も多く、風当りも強いです。しかし、正しく実装されることで便利になることも事実です。改革にはリスクが伴いますが、少子高齢化が進む日本です。リスクに対してもっと前向きに取り組む姿勢がほしいですね。

神様:日本のIT企業でも、日本語の大規模言語モデルを独自に開発している企業や日本版の生成AIサービスを提供している企業など、数多くの企業がAIビジネスを開発しています。確かに米国の「GAFAM」のように、巨大な資金力と技術力を持った企業がAI開発においても強いことは否めません。しかし、イノベーションとは思わぬ方向から現れるものです。最新技術を貪欲に追及していく姿勢から、新たな局面が生まれるでしょう。ここは、日本のAI関連企業の巻き返しに期待しましょう。

(この項終わり。次回8/23掲載予定)

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