第359話 各国厳しい排ガス規制 車載用リチウムイオン電池の世界市場が拡大

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、海の見えるカフェでアイスコーヒーを飲みながら投資談義を行っています。


神様:日銀は7月10日、全国の景気の現状を3カ月ごとにまとめている地域経済報告(さくらレポート)を公表しました。それによると、7月の各地域の景気の総括判断において、東海、中国、九州・沖縄の3つの地域で景気判断が引き上げられました。東海と中国の両地域は「持ち直している」とし、九州・沖縄は「緩やかに回復している」としています。

T:物価高騰などの影響を受けつつも、景気の回復傾向が見られるのはうれしいですね。

神様:東海、中国、九州・沖縄、この3つの地域に共通していることがあるのですが、何かわかりますか?

T:え、何でしょう?工場が多いとかですか?

神様:いい線行っていますね。3地域に共通するのは、製造業の生産設備が集中することです。自動車の挽回生産や半導体関連の設備投資の活発化などが地域経済の回復に貢献していると見られます。

T:なるほど。旅行需要の回復やインバウンド消費の盛り上がりのような個人消費の回復だけでなく、製造業の生産活動の回復も加われば、これからの景気回復が大いに期待できますね。

神様:さて、今日は製造業関連のお話にしましょう。車載用リチウムイオン電池(LiB)の世界市場が大きく拡大しています。矢野経済研究所によると、2021年の車載用リチウムイオン電池世界出荷容量は前年比で120.9%増となる371.1GWhとなりました。

T:120.9%増ですか。すごいですね。

神様:2021年にリチウムイオン電池のお話をしたことを覚えていますか?そのときに予測されていた市場規模(第258話 「グリーン×デジタル」日本強み持つリチウムイオン電池に期待)と見比べてみてください。2021年の市場拡大がいかに大きかったかがわかります。

T:本当ですね。今後の予測についても大きく変わっています。

神様:最新の予測では、2030年には2022年比で2.6倍となる1,163GWhまで拡大すると見られています。背景にあるのは、世界各国政府が定める温室効果ガスの排出量の厳しい削減目標です。欧州だけではありません。米国では、二酸化炭素の排出量を2027年から2032年にかけて段階的に50%程度削減する規制を検討しています。各自動車メーカーは、EVを中心に電動車の販売比率を高めることで規制をクリアする方針です。

T:4月に米国バイデン政権が発表した排出ガス削減案ですね。10年以内に米国の新車販売の7割がEVになる可能性があるそうです。

神様:欧州では、2022年11月に新たな排ガス規制案である「Euro7」を発表しました。EVやプラグインハイブリッド車に搭載される電池について、使用開始から5年後または10万km走行時点の容量が初期状態から80%以上を維持することが規定されています。より高性能な電池が求められます。また中国でもEV政策が大きく進展していますね。

T:車載用リチウムイオン電池では、日本の強みを生かすことが大切ですよね。

神様:その通りですが、世界市場では中国や韓国がシェアを拡大しています。今後は原材料などのサプライチェーンの維持・強化や次世代電池でもある「全固体電池」の開発促進など、取り組むべき課題が多くあります。これらにしっかり対応することが、日本の強みを生かすことにつながるはずです。

T:日本のチャンスを生かせるか、今が正念場ですね。

神様:米国では日米の完成車メーカーが車載用リチウムイオン電池の工場を建設し、2024年以降の稼働が相次ぎます。日本にはリチウムイオン電池や主要部材を手掛ける競争力の高いメーカーが多く存在します。今後のビジネスチャンスの拡大に期待したいところです。

(この項終わり。次回8/2掲載予定)

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