第355話 アジア市場で急成長へ 次世代医療「再生医療」に高まる期待

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、都内の喫茶店でアイスコーヒーを飲みながら投資談義を行っています。


T:ここ最近の東京株式市場は日経平均株価の上昇が続いています。バブル期を超える日経平均4万円台も期待されているようですが、この要因は何でしょうか?

神様:株高の背景には、およそ10年ぶりとなる海外投資家による大きな買い越しがあります。過去に海外投資家が日本株を大量取得したのは、2003年~2007年と2013年~2015年の2度ありました。今回はまだ本格的な買い越しから日が浅く、長期目線の海外投資家の日本株取得は始まったばかりと言えます。そのため、さらなる株高を期待する声があるのでしょう。物価と賃上げの好循環や企業改革が海外勢の日本株への関心を高めています。今後も継続的な日本株買いが期待されます。

T:株高の影響もあるのか、NISAを活用した投資信託や株購入にも人々の注目が集まっているようですし、来年の新しいNISAスタートに向けてさらに盛り上がりそうですね。

神様:多くの人が投資に触れ、投資を理解し、活用するようになることに期待したいと思います。さて、Tさんは「ティッシュエンジニアリング」という言葉をご存知ですか?

T:いえ、初めて聞きました。ティッシュとエンジニアリングがどうつながるのでしょうか?

神様:この場合のティッシュは「組織」を意味します。ティッシュエンジニアリングとは、生きた細胞を使って本来の機能をできるだけ保持した組織・臓器を人工的に作り出すことを言います。

T:なるほど。ということは、iPS細胞などの再生医療に関わるお話ですね。

神様:その通りです。今、再生医療市場が大いに注目されています。再生医療とは、人体が持つ細胞や再生能力を利用して病気を治す医療のことを言います。日本では、2014年9月に世界で初めてiPS細胞を用いた移植手術が行われました。2014年11月には従来の「薬事法」が改正され「再生医療等製品」が新たに定義されました。続いて「再生医療等安全性確保法」が制定されるなど、再生医療をめぐる法整備が進み、日本に再生医療の市場が誕生しました。

T:市場が誕生してまだ10年弱ですね。

神様:はい。しかし、次世代医療としての再生医療は着実に拡大しています。世界の再生医療市場の規模は、2022年に122億ドルとなりました。今後、2027年には406億ドルへ成長すると予測されています。これは、年平均で27.2%の成長見込みとなります。市場の高い成長率のため、再生医療は産業としても大きく注目されています。現在は北米が再生医療市場の最大シェアを占め、今後さらに研究開発への資金提供や投資の増加によって拡大すると見られていますが、今後最も高い成長率が見込まれるのはアジア市場です。

T:そこは日本が引っ張っていきたいところですね。

神様:もちろん。日本では再生医療の産業化や臨床応用が進んでいますから、その可能性はあるでしょう。しかし、中国や台湾では国家規模で開発強化を図っていますし、ベトナムやインドネシアでも細胞を用いた各種研究が増加しています。アジア各国でティッシュエンジニアリング市場が盛り上がりを見せています。

T:しかし、日本は世界で初めてiPS細胞を用いた移植手術が行われた国ですよ。この機会を逃すわけにはいきませんよ。

神様:おっしゃる通りです。日本の再生医療をめぐる法体系は、世界からも注目を浴びるほど素晴らしいものとされています。しかし、世界市場で競争していくためには、ベンチャーが創業・発展しやすい支援のあり方、アジアなどの他国との協調体制の構築など、成すべきことは数多くあります。日本では官民でどのように推進していけるかが、今後アジア市場でイニシアティブを取れるか否かに関わってくるように思います。

T:人工透析、人工関節、臓器移植などにおいて、拒絶反応や感染症のリスクを軽減できる可能性がある再生医療は多くの人々が待ち望んでいるものです。今後、新たな治療の選択肢として大きな存在となっていく中で、再生医療に関わる日本の企業の活躍に期待したいと思います。

(この項終わり。次回7/5掲載予定)

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