第354話 世界で深刻化する食糧危機 スマート農業の普及に注目

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、公園を散歩しながら投資談義を行っています。


T:ロシアによるウクライナ侵攻が長期化しています。最近ではウクライナがロシアに対する反転攻勢を行っていることを明らかにするなど、戦況が激化している模様です。また、ウクライナの巨大ダムが決壊し、水害も深刻です。

神様:ロシアによるウクライナ侵攻の影響は甚大です。ダム決壊は農業にも深刻な被害を及ぼすことでしょう。

T:本当に、世界の農産物への影響は大きいですよね。

神様:ウクライナは世界有数の農業大国であり、欧州を始め、世界中に小麦やトウモロコシなどの穀物を輸出しています。農産物へのダメージは大きく、世界に食糧危機をもたらしています。そもそも現在、世界の人口増加、気象変動の影響、さらに穀物需要の拡大などにより穀物価格が高騰しています。そこにさらに地政学的リスクの高まりがあり、食糧危機に拍車をかけているのです。

T:世界中で深刻な問題となっていますね。穀物不足の中、生産量は増えているのでしょうか?

神様:増えています。米国農務省は、2023/2024年度の世界の穀物生産量が、2000/2001年度に比べて1.5倍の水準に増加すると予測しています。今後も穀物消費量の拡大と共に穀物生産量の拡大が続くと見られています。

T:今後、消費量が生産量を上回り、需給バランスが崩れると危険ですね。

神様:その通りです。G7広島サミットでは「食料安全保障に関する声明」を発出しています。この声明ではG7各国だけでなく、インド、オーストラリア、ブラジルなどのサミット参加国も交えて、今後、より強靭で持続可能かつ包摂的な農業・食料システムを構築するために協力していく重要性を共有しました。食は人間が健康に生きていくために欠かせない要素です。この問題に世界がどう取り組んでいくのか、今後の動向に注目しましょう。

T:しかし、穀物価格が高いということは、農家にとっては増産意欲を刺激するものですよね。離農が進んでいる日本でも、就農者が増えたりはしないのでしょうか?

神様:それは難しいでしょう。少子高齢化の日本では、農業従事者の高齢化が進んでいます。後継者がいない、労働力が不足しているなど、農業を続けていくこと自体が難しいという課題を抱えている農家が多いです。一方で人口が増えていく世界では、長期的に見れば農家の増産意欲を刺激しやすく、農業機械や肥料などへの需要拡大を促すきっかけにもなりやすいでしょう。

T:世界と国内の事情が異なるということですね。

神様:「スマート農業」の拡大は世界から進むことが期待できるかもしれません。

T:スマート農業は注目されていますが、日本では実証実験はしているもののなかなか導入が進んでいないように見えます。スマート農業機械が高価であったり、就農者自身がITへの知識や経験が不足し、使いこなせないことなどがネックになっているようですね。

神様:ロボット、AI、IoTなどの先端技術を使って農作業の効率化及び省力・高品質生産を実現し、人手不足を解消することは、今後避けては通れない道です。国内での普及には時間がかかるかもしれませんが、着実に増えていくでしょう。矢野経済研究所は、2028年度の国内スマート農業市場が2021年度比で2.5倍の624億円に拡大すると予測しています。農作業の自動化を可能とするロボット農機の導入など、世界はもちろん、国内でも食料自給率向上に貢献する手段として活用が進むことは、間違いありません。

T:なるほど。そのためには、スマート農業に関わる国内企業の一層の努力が求められますね。良い作物を育てる方法は農家の命です。家族経営の農家などではやり慣れた方法を変えることには大きな勇気がいると思います。官民共に、毎日自然を相手に奮闘している農家にさらに寄り添ったスマート農業支援を行ってほしいですね。

(この項終わり。次回6/28掲載予定)

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