第339話 世界市場規模276兆円へ カーボンニュートラルの”切り札”に高まる期待

株の神様の声が聞こえるというTさんは、定期的にその教えを受けています。今日は、Tさんと神様は、梅の花が咲く公園を散歩しながら投資談義を行っています。


神様:前回は、GX(グリーン・トランスフォーメーション)の要としてEVを取り上げました。今回はその続きとして、カーボンリサイクルのお話をしましょう。

T:カーボンリサイクルとは、排出されるCO₂を再利用しようとする活動のことですね。

神様:はい。その前に、前提となることをお話しましょう。政府は、2050年に温暖化ガスの排出量を実質的にゼロとする「カーボンニュートラル」の実現を目指しています。そのため、2030年における再生可能エネルギーの電源比率を36%から38%とする目標を掲げています。

T:この目標を実現するために、次世代原子力発電(第318話 脱炭素エネルギーの柱へ 「次世代原子力発電」とは?)の開発などとともに、太陽光エネルギーの活用(第267話 再エネの本命「太陽光発電」の現状は?今後の課題は?)など再生可能エネルギーの開発が急がれているのでしたね。

神様:それでは2021年現在のエネルギー状況はどうなっているでしょうか。見てみると、火力発電が70%で、依然として高い割合となっています。

T:2019年時点では火力発電が76%(第288話 高い成長を期待「脱炭素」市場に熱い視線)でした。ほとんど変わっていないのですが、なぜ日本は火力発電の割合が依然として高いのでしょうか?

神様:石炭火力発電は、安定供給と経済性に優れた発電です。再生可能エネルギーはまだまだ価格が高く供給も不安定です。安定的な供給、経済性、環境適合、安全など様々な側面を満たす石炭火力発電は、エネルギー資源が乏しい日本にとってはこれからも活用していくことが求められます。

T:確かに、日本は資源に乏しいという大きな特徴がありますね。

神様:そのため、石炭火力発電の活用においても、大気汚染物質の排出を削減し、発電効率を高める技術開発を行い、火力発電のデメリットの低減に努めています。

T:なるほど。さらに、その技術を世界に提供できれば、クリーンな火力発電を普及させることができるわけですね。

神様:その通りです。一方で、カーボンニュートラルの実現へ向けた”切り札”として期待されているのが「カーボンリサイクル」です。特に、CO₂の回収技術であるCCSと貯蔵したCO₂を再利用するCCUSが注目されています。

T:CCSとCCUSはもう何度も出てきているワード(第291話 脱炭素で注目「CCUS」とは?期待高まるカーボン・リサイクル)ですね。

神様:はい。CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、発電所や化学工場などから排出されたCO₂を他の気体と分離させて回収し、地中深くに圧入、貯留する技術のことを言います。またCCUSは「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略です。貯蔵したCO₂を樹脂、エタノールやメタン等の燃料、それからコンクリート製品等を製造する際に利用します。

T:CO₂の排出がゼロにできなくても、排出されたCO₂を回収し再利用することができれば、カーボンニュートラルの実現も期待できます。カーボンリサイクルの技術が鍵ということですね。

神様:富士経済が2022年7月に公表した調査結果によれば、カーボンリサイクルの世界市場規模は2022年推定では17.8兆円ですが、2050年には、実に276.6兆円にまで拡大すると予測されています。カーボンリサイクルの導入へ向けて、いま世界各国で制度の整備が進められています。日本国内の高い技術を持った企業にとっては大きなチャンスとなるでしょう。

T:資源の乏しさは、日本が背負う宿命ですが、それを高い技術力で補ってきました。今後も技術を磨き、世界に向けて積極的に輸出していくことでビジネスチャンスが広がることを期待したいと思います。

(この項終わり。次回3/8掲載予定)

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