新幹線のトンネルの入り口に、本体より一回り大きな“筒”や、側面に穴のある構造物が付いているのをご存じでしょうか。じつはこれ、ある「ドン」という現象を抑えるための、知られざる工夫です。
新幹線トンネルの「ドーン」という音の正体
新幹線に乗っていると、トンネルに入る瞬間に耳が「ツン」としたり、車内で「ボッ」という圧迫感を覚えたりした経験はないでしょうか。実はトンネルの外でも、似たような現象が起きています。高速の列車がトンネルに突っ込むと、出口側で「ドーン」という破裂音のような音や振動が発生することがあるのです。
これは「トンネル微気圧波(びきあつは)」と呼ばれる現象で、俗に「トンネルドン」とも言われています。鉄道総合技術研究所(鉄道総研)の説明によると、列車が高速でトンネルに突入するとトンネル内に圧縮波が生まれ、これが音速で伝わって反対側の出口からパルス状の圧力波として放出されるといいます。これが坑口付近で発破音のような爆発音を発生させたり、周辺家屋の建具などをガタつかせたりすることがあるとされています。
空気鉄砲を思い浮かべると、イメージしやすいかもしれません。筒の中の空気が押し縮められ、反対側から「ポン」と勢いよく飛び出すように、高速列車がトンネル内の空気を押すことで、出口側に圧力の波が伝わるのです。
この音を抑えるために、トンネルの入り口に取り付けられているのが、本体より一回り大きな筒状の構造物です。これは「緩衝工(かんしょうこう)」と呼ばれています。そして、この緩衝工が「ドン」をやわらげるポイントは、列車がトンネルに飛び込む瞬間に、空気を「一気に」押し込ませないことにあります。
“筒”と“横の穴”が「ドン」をやわらげるワケ
トンネル微気圧波の大きさは、坑口に届く圧縮波の「圧力の立ち上がりの急さ」にほぼ比例することがわかっています。つまり、空気の圧力をジワジワとなだらかに上げてやれば、「ドン」は小さくなります。緩衝工はそのための仕掛けなのです。
緩衝工はトンネルの入口側に設けられ、列車の突入にともなう圧力変化をなめらかにし、圧縮波が急に立ち上がるのを抑える効果があります。トンネル本体より断面積を大きくしたり、側面に開口部やスリットを設けたりするのは、列車が突入したときの圧力変化をゆるやかにし、微気圧波を小さくするためです。その効果は絶大で、環境省の資料によると、ある新幹線トンネルの出口で測定したところ、長さ49mの入口緩衝工を設けたことで大きな発破音が解消された事例もあります。
もちろん、対策は地上の緩衝工だけではありません。新幹線の先頭車両がロングノーズ(長く伸びた形)をしているのも、トンネル突入時の圧力変化を小さくし、微気圧波を抑えるための工夫のひとつです。地上の緩衝工と車両の先頭形状、その「双方の合わせ技」で「ドン」を抑えているのです。
ただし、速度が上がるほど対策のハードルは高くなります。鉄道総研の公式WEBサイトでは、現在では微気圧波の問題をクリアしつつ、最高320km/hでの営業運転が実現していると説明されています。さらに同研究所は、より効果的に微気圧波を低減できる緩衝工の構造を、模型実験などをもとに研究し続けています。
ふだん何気なく通り過ぎているトンネルの入り口。その出っ張った筒状の構造や横の穴には、沿線に暮らす人々の静けさを守る、土木の地味で奥深い知恵が詰まっているのです。