世界初の「水素専焼エンジン」を搭載した内航タンカーが実証航行に成功しました。カーボンニュートラルを実現するうえで重要な一歩になりそうですが、完全に「水素だけ」の運航には課題もあります。
世界初の「水素だけを燃料にするエンジン」 だが”船にポン付け”
日本財団が推進する「ゼロエミッション船プロジェクト」の一環として開発が行われている世界初の“水素専焼エンジン”を搭載した内航タンカー「輝光丸」が2026年9月30日、神戸港中突堤(神戸市)で報道関係者などに公開されました。すでに同船を使用した、これまた世界初となる同エンジンを使用したカーボンニュートラル実証航行を成功させています。
ただそのエンジンは船体に内蔵されているわけではありません。甲板に”ポン付け”された巨大なエンジンが存在感を放っていました。
「輝光丸」は5000キロリットル型のタンカーとして、2025年10月に福岡造船長崎工場(長崎県長崎市)で竣工しました。総トン数は4443トンで、内航タンカーとしては最大級の船型。全長は104.93m、幅は16m、航海速力は約13ノットです。定員は15人となっています。積み荷は「白油」と呼ばれる灯油や軽油、ジェット燃料などで、北は北海道、南は沖縄まで全国に航海する不定期航路の船です。
同船を保有し運航する上野トランステックの上野 孝社長は、水素燃料による実証航行が成功したことについて「次世代エネルギー社会の発展に資する貴重な財産となる」と述べつつ、「内航業界だけではなく、燃料を供給する業界、港湾の関係の業界が一体になって船舶のゼロエミッション化の推進を図っていく必要がある」と強調しました。
最新鋭の内航タンカーと言える「輝光丸」の最大の特長は推進システムにあります。同船は発電機とバッテリーのハイブリッド方式を採用した電気推進船です。4台の主発電機と、容量1000キロワット時のリチウムイオンバッテリーを搭載しており、ここで作られた電気によって2基の電動モーターを駆動させることで推進します。停泊時には主発電機を止めてバッテリーから給電するといったことも可能です。
目玉となる「水素専焼エンジン」と「水素燃料供給システム」は、それぞれ40フィートコンテナ(長さ約12m)に収められたユニット型の水素発電装置として上甲板部分に搭載できるものとして制作されました。
「輝光丸」は本来、重油を燃料に発電し、モーターを回して航行しますが、2026年9月に大阪湾で行われた実証航行では、この水素専焼エンジンによる発電システムを使用。この方法で世界初となる水素専焼エンジンを搭載した船舶によるカーボンニュートラル航行を実現しました。
完全に「水素だけ」にはまだまだ課題が
日本財団の海野光行常務理事は「水素燃料だけしか使用できない船にだと、サプライチェーンが整っていない状況では、船舶の運用に大きく制限が出てしまう。水素普及の過渡期であることも踏まえ、レトロフィット方式という従来の燃料でも動かせる状態の船に水素エンジンやタンクを後付けするという方法を使った」と説明しました。
このエンジンは、ヤンマーパワーソリューション(ヤンマーPS)が開発している舶用水素4ストローク高速エンジンです。ゼロエミッション化に向け、少量のHVO(水素化処理植物油)を点火源(パイロット燃料)として用い、水素燃料と空気の予混合気を燃焼させる方式を採用している点がポイント。今後は究極のゼロエミッション化として、パイロット燃料による着火に代わり点火プラグを用いた「火花点火式」の水素専焼エンジンの開発にも取り組みます。
「世界初の水素水素専焼エンジンによる航行が技術的に可能であるということを達成できた。ベースとなる架台は残し、条件が揃えばいつでも水素船として運航できるような状況というものを整えていきたい」(日本財団 海野常務)
水素専焼エンジンとタンクコンテナを開発したヤンマーPSの廣瀬勝社長は、「内航海運全体のゼロエミッション化を目指し、水素燃焼エンジンの早期市場投入に取り組んでいきたい。しかし、水素燃料船が増えるためには、港湾への水素供給インフラ整備が不可欠。また、船舶の場合は大量の水素燃料を消費するため、水素充填速度の高速化も必要となってくる」と課題を指摘しました。
また、市場で流通している水素の大半が化石燃料を原料としている点にも触れ、「燃料の製造過程を含むトータルWell-to-Wake(生産井から航海まで)のゼロエミッションを実現させるために、グリーン水素の大量生産と流通が今後展開されることを期待する」と述べました。
日本財団の「ゼロエミッション船プロジェクト」では水素燃料船の開発が進められており、これまで商船三井テクノトレードの水素燃料電池搭載船「HANARIA」や、常石グループなどが開発した水素混焼エンジン搭載タグボート「天歐(てんおう)」といった小型の船が竣工済み。今後は洋上水素ステーションや、常石造船が建造し東京湾フェリーが運航する水素専焼エンジン搭載カーフェリーが出てくる予定です。