名鉄で車両の入換用として使われてきた電気機関車「デキ303」が引退します。日本の電気機関車の黎明期に製造された貴重な車両で、その引退により大手私鉄から「凸型」の電気機関車が姿を消します。
大手私鉄から消える「凸型」電機
名鉄の舞木検査場(愛知県岡崎市)で牽引(けんいん)車として使われていた凸型の電気機関車「デキ303」が引退を迎えます。この車両は、日本の電気機関車の黎明期に造られた貴重な車両でもあります。
名鉄は、大手私鉄では珍しく電気機関車を保有しています。かつて貨物列車の牽引に使用していましたが、貨物列車が廃止された現在は、一部の電気機関車が車両工場での入換をはじめ、新車や廃車輸送、レールやバラスト(線路の砕石)の輸送に使われています。
今回引退するデキ303も、そのうちの1両です。名鉄に貨物列車があったことを証明する「生き証人」と言えるのかもしれません。
ちなみに名鉄では、2015(平成27)年から新型のEL120形電気機関車を導入しています。また、電気機関車とは別に、デキ303の後継として新型牽引車の通称「舞力(マイヤー)」も導入されています。2026年6月20日には記念撮影会「新旧牽引車展示会 ~さらばデキ、頼むぞ舞力~」が開催されます(参加券はすでに完売)。
大手私鉄で貨物列車を運行していた会社のうち、関東は東武や西武など、関西は南海や近鉄などが凸型の電気機関車を保有していました。今回のデキ303の引退で、大手私鉄から凸型の電気機関車がなくなります。
デキ303はデキ300形の3両目として1927(昭和2)年に製造された電気機関車です。
デキ300形は、三河鉄道(現・名鉄三河線など)で1926(大正15)年から1929(昭和4)年にかけて5両が導入されました。のちに一畑電気鉄道(現・一畑電車)から1両を譲り受け、6両に増えています。最初の2両は日本車輌が車体関係を、アメリカのウェスチングハウス社が走行機器を担当。デキ303を含む4両は三菱造船所と三菱電機の組み合わせで造られました。
デキ303もほかの電気機関車と同じく貨物列車で使われましたが、廃止後は鳴海(名古屋市緑区)の車両工場で入換作業に従事し、1997(平成9)年、稼働を開始した舞木検査場に引っ越しました。2014(平成26)年には廃車されて工場設備の扱いとなりましたが、役目に変わりはありません。
デキ303の希少価値
舞木検査場では、車両の大がかりな検査や改造が行われています。その際に電車は切り離され、大がかりな検査では分解整備を行うために自走できなくなります。その車両を検査場の建屋に押し込んだり、逆に引き出したりするのが牽引車の役割です。
舞木検査場の建屋の中は架線がないため、デキ303は架線があるところまで走行し、無蓋貨車のトラ73を介して、検査する電車を建屋の奥に押し込みます。ちなみに、新型の牽引車はバッテリーで動くため、架線の有無を気にする必要はありません。
デキ303は全長10152mm、重さ約30tの機関車です。出力は当初、約300kWでしたが、1968(昭和43)年の改造でモーターを交換して240kWになっています。登場した昭和初期は日本の電気機関車の黎明期で、海外製から国産に移行しつつある時期でした。
先の通り、デキ303は三菱造船所が車体関係を、三菱電機が走行機器関係を担当して造られています。凸型の車体で、中央にある運転室には車体の前後から出入りする構造です。このため、ボンネットに当たる部分は片側に寄せ、運転室に出入りするための通路を設けた構造としています。このスタイルは、アメリカから輸入した電気機関車に見られるものです。
このアメリカ製の電気機関車は車体関係がボールドウィン、走行機器関係はウェスチングハウスが担当したものが多数を占めています。2026年現在も、青森の弘南鉄道のED221やED333が現役ですが、かつては名鉄にも同型の電気機関車がありました。保存車両だと、アルピコ交通(元・松本電気鉄道)のED301や三岐鉄道西藤原駅のED222などがあります。デキ303はアメリカ製電気機関車に倣った造り、と言えるのかもしれません。
デキ303はのちに運転台が改修され、速度計などの計器類はパネルに収められています。電車に似た構造ですが、デキ303はブレーキが左手側、自動車のアクセルに相当するマスコンが右側に配置されています。一般的な電車の配置と逆で、機関車らしいところです。このマスコンは三菱電機製ですが、モーターは東洋電機製に交換されています。
運転台は凸型部分の前後にあり、間の機器室にはボンネットの部分に入らなかった機器が収められています。機器室には細い通路があり、前後の運転台を行き来できます。
デキ303のように三菱造船所と三菱電機の組み合わせで造られた重さ30t級の凸型電気機関車は数が少なく、その多くは名鉄が保有していました。デキ303の引退で、黎明期の希少な凸型電気機関車の一つがなくなります。