FIFAワールドカップ2026に向けた最初の活動が、来週25日からスタートする。日本代表は約一週間の調整を経て、31日に壮行試合・アイスランド代表戦(国立競技場)を実施。その後、直前合宿地のメキシコ・モンテレイに渡り、現地適応を兼ねたトレーニングを行い、ベースキャンプ地であるアメリカ・ナッシュビル入りする。そして14日に初戦・オランダ代表戦を迎えることになるのだ。
「今回の場合は一箇所の時間が長くならないように配慮されている。合間にオフも入ってくるので、選手にとってはいいと思います」と語るのは、2010年南アフリカ大会、2014年ブラジル大会、2018年ロシア大会の3大会でキャプテンを務めた長谷部誠コーチ。そういった工夫を凝らしながら、選手個々のコンディション、チーム全体の状態をトップに引き上げることが何よりも重要である。長谷部コーチはその大切さ、難しさを痛感している一人だ。
特に南アフリカ大会は紆余曲折の連続だった。日本代表は5月の壮行試合・韓国代表戦で0−2の惨敗。中村俊輔(現日本代表コーチ)が「今まで積み上げてきたものが、ちょっとずつ消えてきている」と焦燥感を吐露したほど、チームに暗雲が漂った。直後に赴いた直前合宿地・ゼーフェルトで選手ミーティングが行われ、超守備的な戦い方にシフトしたのはご存じの通り。キャプテンが中澤佑二から長谷部に代わるという大鉈も振るわれ、当初は本人も「自分はキャプテンなんてやったことがない」と困惑の表情を見せていた。そこから年長者たちに気を使いながらも、年下の本田圭佑らを伸び伸びとプレーさせるというのは、並大抵の苦労ではなかったはず。崖っぷちの日本代表をベスト16入りへと導くという大仕事は、間違いなく大きな自信になっているはずだ。
2018年4月にヴァイッド・ハリルホジッチ監督が解任されたロシア大会もゴタゴタが続いた。西野朗監督体制で5月の千葉合宿から新たなチーム作りをスタート。本番直前まで誰が試合に出るのかもハッキリしなかった。それだけの大混乱の中、キャプテン長谷部はギリギリのタイミングで選手ミーティングを実施。個性豊かな面々を一つにまとめ上げ、8強まであと一歩というところまでチームをけん引した。その手腕も特筆すべき点と言っていい。
「選手の時もそうでしたけど、あまりに早くスイッチを入れすぎると難しくなる。今、コーチングスタッフとして伝えられることがあれば伝えています。今回は体を使う仕事ではないので、頭をフル回転させないと。いい形でリフレッシュしながらやらないと、アイディアも生まれてこないので、自分なりに試行錯誤しながら準備しています」と日本代表コーチになった元キャプテンは過去の経験値を最大限生かしながら、選手個々の状態引き上げ、チーム力アップに尽力していく構えだ。
その中には、もちろんケガ人のサポートも含まれている。目下、遠藤航を筆頭に、板倉滉、冨安健洋、鈴木唯人といったキーマンたちが負傷からの回復途上にある。遠藤は長期間、公式戦から離れた状態で本大会に挑まなければならないし、冨安に至っては約2年間代表活動から遠ざかる中、ぶっつけ本番で大舞台に立つことになるのだ。
「僕自身も2014年は同じ状況でした。右ひざを手術して、回復がなかなかうまくいかなくて再手術をしたりして、思ったよりも時間がかかってしまった。当時の感覚としては『チームに迷惑をかけた』という思いもあれば『何カ月か試合に出ていないので、疲労が溜まっていなくて、逆にフレッシュだ』という部分もありました」と長谷部コーチはしみじみと12年前を述懐する。
実際、長谷部は初戦のコートジボワール代表戦で後半9分、2戦目のギリシャ代表戦は後半頭にベンチに下がっている。強靭なフィジカルに定評のあった長谷部が途中交代するというのは、長い代表キャリアでもほとんどない。それだけ無理を重ねてピッチに立っていたのだ。最終戦のコロンビア代表戦はフル出場できたが、やはりケガ人は徐々に調子を上げていくべき。それも本人は痛感したのではないか。
今回の日本代表は決勝トーナメント以降にギアを上げる必要がある。そのタイミングで遠藤や冨安らがトップフォームを取り戻してくれれば、本当に心強い限りだ。そうなるように、彼らを心身両面から支えられていくことも、長谷部コーチの役割。何らかのアクシデントが起きた際、チームがブレないように精神的支柱になることも大きな仕事だ。
「彼らが不安を抱えているのであれば、自分の経験からいろいろと話をして、マインドの持ち方を伝えていくのも自分がいる意味だと思っています。仮に初戦で負けたとしても、今回は48カ国参加になり、3位でも12チーム中8チームが次のラウンドに進める。そういう違いもありますし、前向きなシミュレーションと経験の両面を生かしながら、選手とコミュニケーションを取っていきたいですね」と偉大なレジェンドコーチはできることを全てやっていくつもりだ。
長谷部コーチの現役時代ではアルゼンチン代表やフランス代表に勝ち、オランダに引き分けるといった好結果を残してきた。今の選手たちもドイツ代表やブラジル代表、イングランド代表に勝ち切ってきたが、「勝ち方や戦術的な引き出しは当時とは明らかに違う」と力を込める。着実に成長している日本代表を指導者として支え、自分たちが越えられなかった8強の壁を越えられれば、最高のシナリオ。今大会での長谷部コーチの本領発揮を楽しみに待ちたいものである。
取材・文=元川悦子