知ってた? 古い電車の顔にある“謎のヒダヒダ”が持つ、乗客の命を救う“絶対的な使命”

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少し古めの私鉄電車などで見かける、先頭車両の連結器周りにある「ヒダヒダ」。実はこれ、衝突事故の被害を軽減する重要な安全装備なのです。

「乗り上がり」で大惨事を防ぐため

 少し古めの私鉄電車を中心に、先頭車両の前面を見てみると、連結器の周りにヒダのようなディティールを持つ車両が見受けられます。一見するとデザイン要素として採用されているようにも見えますが、実はこれ「アンチクライマー」という安全装備です。一体どのような目的で設けられているのでしょうか。

 アンチクライマーは「Anti(防止する)-Climber(登る)」という名の通り、列車が正面衝突した際、相手方の車両に乗り上がるのを防止する装置です。双方にアンチクライマーが装着されていた場合、ヒダの部分が噛み合い、ガッチリとホールドして上下の動きを制限することで、乗り上がりを防ぐ仕組みとなっています。

 もし衝突時に一方の車両が相手に乗り上げてしまうと、何が起こるのでしょうか。車両の車体部分は乗客を乗せるため内部に大きな空間がありますが、そこに別の車両が乗り上がると、車体を支える土台部分の頑丈な構造物「台枠」が、もう一方の車体部分にめり込んでしまうことがあります。

 台枠に比べると、空間が大きい車体部分は強度が劣っており、めり込んだ台枠は車体を破壊しながら進んでいきます。この現象は、望遠鏡(テレスコープ)の鏡筒が伸び縮みする仕組みに似ていることから、「テレスコーピング現象」と呼ばれています。

 車体を破壊しながら別の車両がめり込んでいくため、破壊された車両の乗客は無事ではすみません。多くの死傷者を出す可能性があります。この現象を防ぐため、丈夫な台枠部分にアンチクライマーを装着し、互いに噛み合わせることで車体の破壊を防ぎ、乗客を保護しようというわけです。

 アンチクライマーは、特に強度の低い木造車体と高強度の金属製車体が混用されていた1920年代から1950年代頃に多く見られました。もし木造車体と金属製車体が衝突すれば、強度の劣る木造車体は簡単に粉砕される可能性が高かったためです。

アンチクライマーの限界と時代の変化

 もちろん、アンチクライマーがあればテレスコーピング現象を完全に防止できるわけではありません。衝突時の速度が速すぎると運動エネルギーが大きくなり、アンチクライマーの強度を上回る力で乗り上がりが発生してしまうことがあります。

 その代表的な例が、1948年に近鉄奈良線で発生した衝突事故です。生駒トンネルを通過中にブレーキが効かなくなった急行電車が暴走し、下り勾配で加速しながら河内花園駅構内で先行する普通電車に70~80km/hで追突しました。

 双方の電車には前頭部にアンチクライマーが装着されていましたが、衝突時のエネルギーが大きすぎて役割を果たせず、金属製の普通電車が木造の急行電車にめり込むテレスコーピング現象が発生。乗客乗員合わせて300人以上が死傷するという大惨事となりました。この事故以降、近鉄ではアンチクライマーを不要な(防止効果の少ない)ものとして、保有する車両から撤去しています。

 その後、鉄道車両が金属製車体に統一されるようになり、信号システムが発達して列車同士の正面衝突事故が少なくなると、アンチクライマーの採用は徐々に少なくなりました。同時に車体の作り方も変化し、現代では前面にクラッシャブルゾーンを設けて衝突時の衝撃を減らしたり、車体の4隅にある柱周辺の構造を強化して変形や破壊を防止したりする設計が採用されるようになったのも、アンチクライマー減少の要因と考えられます。

 それでも、関東地方の大手私鉄には比較的アンチクライマーを装着する車両が残っています。京成3500形(1972年登場)と3600形(1982年登場)、旧新京成の8800形(1986年登場)、東武9000系(1981年登場)、東武10000系(1983年登場)、京王7000系(1984年登場)と8000系(1992年登場)、京浜急行1500形(1985年登場)などが現役として活躍しています。

 また変わったところでは、JR東日本の常磐線や水戸線などを走るE531系(2005年登場)の例があります。この車両では、先頭車の前面にではなく、先頭車とその隣の車両との連結面にアンチクライマーを装着し、さらに先頭車側に衝撃吸収ダンパーを装着するという形式を採用しています。

 E531系は先頭車前面にクラッシャブルゾーンを設けており、衝突時にはそこで事故の衝撃を軽減しつつ、隣の車両への乗り上がりをアンチクライマーと衝撃吸収ダンパーで防ぐという、二段構えの被害軽減策を講じています。これは最高運転速度130km/hに対応した設計といえるでしょう。