湾岸で時折見かける、甲板に巨大な銀色の球を並べた船。あれは液化天然ガス(LNG)を運ぶ特殊船です。なぜ球形なのでしょうか。
マイナス162度の“液体ガス”を運ぶ船 銀色の球の正体とは
2026年10月現在、中東情勢が混迷の度合いを増し、「LNG(液化天然ガス)」の安定供給に注目が集まっています。このLNGは、発電や都市ガスに欠かせない資源です。これを産出地から日本まで運んでくるのが「LNGタンカー」です。
湾岸の港などで見かける、甲板の上に巨大な銀色の球をいくつも並べた独特な姿の船。あれがLNGタンカーの一種です。半円が連なるその光景は、一度見たら忘れられないインパクトがあります。ここで取り上げるのはガスを燃料に走る船ではなく、ガスそのものを荷物として運ぶ「運ぶ側」の船です。
LNGとは、天然ガスをマイナス約162度という超低温まで冷やして液体にしたものです。気体のままでは体積が大きすぎて運べませんが、液体にすると体積はおよそ600分の1に縮みます。このため、船で一度に大量輸送できるのです。
この超低温の液体を、ほぼ大気圧のまま安全に運ぶため、タンクには特別な工夫が施されています。タンクの方式は複数ありますが、ここでは見た目に分かりやすい「モス型」と、近年の大型船で主流となっている「メンブレン型」を紹介します。
「球」と「薄い膜」つくりが真逆な2タイプの秘密
あの巨大な銀色の球の正体は、「モス型」と呼ばれるタンクです。これはノルウェーの企業が開発したもので、JOGMEC(エネルギー・金属鉱物資源機構)の用語解説によると、アルミ合金などでできた独立した球形タンクを船体に固定しています。タンクの赤道部分を「スカート」と呼ばれる支持部で囲い、船体とつないでいるそうです。
タンクが球形であるのには理由があります。球は内部の圧力や荷重が均等に分散しやすく、構造的に非常に丈夫だからです。また、波で中の液体が揺れる「スロッシング(液揺れ)」にも強く、タンクが半分ほどの状態でも航海しやすいのが特長です。
一方、近年主流となっているのが「メンブレン型」です。メンブレンとは英語で「膜」を意味し、その名の通り、船体の内側に金属のごく薄い膜を張り付けてタンクにする方式です。
この膜は驚くほど薄く、同機構の用語解説によれば、厚さ0.7mmほどのニッケル鋼(インバー)などが使われます。膜自体は自立できず、断熱材を挟んで船体で支える構造になっています。メンブレン型は船体の四角い空間をむだなく使えるため、容積効率が高いのが最大の利点です。同機構の技術資料でも、排水量の小さい船に仕上げられるとされています。
容積効率で不利になりやすいモス型に比べ、メンブレン型はスエズ運河の通航料でも有利とされてきました。外見も箱型に近く、知らない人にはLNG船と気づきにくいかもしれません。
ただし、それぞれに長所と短所があります。薄い膜を張るメンブレン型は、精密な溶接や部材の施工管理が重要になります。一方、モス型は船体から独立した球形タンクで、溶接箇所が少なく品質管理がしやすいという長所を持っています。
入ってくる熱との闘い 気化したガスは“燃料”にも
タンクのタイプは違っても、どちらの船も超低温を保つための断熱が命です。しかし、外からの熱を完全に遮断することはできず、タンク内のLNGは航海中に少しずつ気化していきます。このガスは「ボイルオフガス(BOG)」と呼ばれます。
このBOGを放置するとタンク内の圧力が上がってしまうため、LNG船では、気化したガスを船自身の燃料として使う方式が古くから採用されてきました。運んでいる荷物の一部を、自分が進むためのエネルギーに変えているわけで、LNG船ならではのユニークな仕組みです。
こうした特殊な船が運ぶLNGは、いまの日本の暮らしに欠かせません。資源エネルギー庁によると、2023年度の日本の天然ガスの輸入割合は97.9%に達し、その輸入分は全量がLNGでした。日本は天然ガスの産出地とパイプラインでつながっていないため、LNGタンカーが輸入の生命線となっているのです。
その供給元は世界中に広がっています。資源エネルギー庁の資料では、日本の2025年のLNG輸入量は約6498万トンで、最大の相手国はオーストラリア(39.7%)、次いでマレーシア(14.8%)、ロシア(8.9%)と続きます。同資料によると中東への依存度は10.8%、ホルムズ海峡への依存度は6.3%とされ、原油に比べて調達先の多角化が進んでいることがわかります。
港でふと見かけるあの銀色の球。あの一つひとつには、マイナス162度の液体を安全に運ぶための知恵と、私たちの暮らしを足元から支える重要な役割が詰まっているのです。