クルマのタイヤには一般的に空気が入っていますが、飛行機のタイヤに使われているのは、じつは“窒素ガス”です。なぜわざわざ空気ではなく窒素を選んでいるのでしょうか。
上空はマイナス45度、着陸時は250度超の過酷な足元
空港で飛行機が滑走路に降り立つ瞬間、その巨体を支えているのが足元の黒いタイヤです。何気なく見過ごしてしまいますが、じつはこのタイヤ、ふだん乗っているクルマとは中身が違います。入っているのは、我々が吸っている「空気」ではなく「窒素ガス」なのです。
窒素ガスは、大気のおよそ78%を占める、色もにおいもない気体です。航空機用タイヤでは古くから窒素ガスが使われており、その特徴が注目されたことで、いまでは一部の乗用車用タイヤでも窒素ガス充填が行われるようになりました。
では、なぜ飛行機はわざわざ窒素を選ぶのでしょうか。その答えは、飛行機のタイヤが置かれる「想像を超えた過酷な環境」にあります。
飛行機のタイヤは、上空と地上とで、激しい温度差にさらされます。ブリヂストンの公式Webサイトによると、フライト時の高度約1万mの気温はマイナス45度、いっぽう着陸時のタイヤ表面温度は250度以上にもなるといいます。
この激しい温度変化こそ、空気ではなく窒素が選ばれる大きな理由のひとつです。
ふつうの空気には、わずかながら水分(水蒸気)が含まれています。もしこの水分がタイヤ内部に多く含まれていると、上空の極寒や着陸時の灼熱によって、タイヤ内の圧力が不安定になる要因になりえます。
その点、航空機用タイヤに使われる窒素ガスは、乾燥した状態で管理される気体です。水分による圧力変動のリスクを抑えやすく、激しい温度変化のなかでも内圧を安定させやすいという大きな利点があるのです。
「燃えない」「サビない」 酸素を含まないことの強み
窒素が選ばれる理由は「内圧の安定」だけではありません。もうひとつの大きな理由が「燃えにくさ」です。
ものが燃えるためには酸素が欠かせませんが、窒素は酸素をほとんど含まない不活性ガスです。FAA(アメリカ連邦航空局)の資料では、大型の旅客機などのブレーキ付き車輪のタイヤについて、内部の酸素濃度が5%を超えないよう、乾燥窒素などの不活性ガスで満たすことが求められています。
着陸時にタイヤやブレーキが250度以上の高温になっても、内部の酸素量が少なければ、万が一の発火や燃焼のリスクを抑えることができます。
さらに、酸素はゴムや金属を酸化させ、劣化やサビを進める原因にもなります。航空機用タイヤは、すり減ったトレッド(接地面)部分を張り替えて再利用する「リトレッド」を前提に設計されており、内部の構造材を長持ちさせることが極めて重要です。その意味でも、酸化を抑えやすい窒素が最適なのです。
ちなみに、航空機用タイヤの内圧は、乗用車用タイヤの6倍以上にもなります。これほど高い圧力を、過酷な温度差のなかで安定して保つには、乾いていて燃えにくい窒素ガスがうってつけというわけです。
何気なく見ている飛行機の足元には、極寒と灼熱の両方に耐えるための“航空機ならではの科学”が詰まっています。