都心方面への相互直通運転で価値爆上がりの「相鉄」ナカの人の視線はちょっと違った――「鉄道会社の街づくり」とは

今、空き家がビジネスになる理由

近年の都心方面への相互直通運転で知名度を上げ、地価も高い伸びを示しているのが相鉄線沿線。しかし相互直通運転は利便性の向上だけではなく、「ブランディング」の意味合いも大きいといいます。洒落た電車も安全投資も沿線再開発も、根っこには一つの思想がありました。

ブランドコンセプトは「安全×安心×エレガント」!

 相模鉄道といえば、2019年に開業したJR線との直通運転、2023年に開業した東急線との直通運転で一気に知名度を上げた印象が強いでしょう。同社のブランドコンセプトには、鉄道事業の基本「安全×安心」に加えて“エレガント”が掲げられています。鉄道会社に“エレガント”とは、少し意外に思えます。

 その背景には、沿線で長年積み重ねてきた、ある一貫した思想があります。相互直通運転は、実は広域ネットワークの形成・利便性の向上と並んで「ブランディング」としての意味合いが大きかったと、相鉄ホールディングスの樋原照幸氏は語ります。

 都心までの時間距離の長さ、沿線人口の減少、そして神奈川県内では一定の認知度はあるものの県外では低いこと、これらの課題を解決することが目的でした。その効果を上げるため、「相鉄デザインブランドアッププロジェクト」を立ち上げました。駅のデザインは流行に左右されず長い時間をかけて熟成していく「鉄・ガラス・レンガ」をキーマテリアルに採用しリニューアル。車両は「横浜の海」をイメージしたYOKOHAMA NAVYBLUEへ、内装はグレー基調に時間帯で変化する調光調色のLED照明を採用しました。

 都心に乗り入れる電車を通じて、横浜県央地域の価値を底上げする地域という「点」の発想から、東京方面を含めた広域の「面」で価値を高める発想への転換です。エレガントとは「日常のちょっとした豊かさ」を提供しているのです。

電車も駅も商業地も変えた でも目線は「沿線」に

 ただしブランドは、見た目を整えるだけでは成立しません。相鉄は全駅へのホームドア整備を完了させています。27駅という規模だからこそ機動的に動けたとも言えますが、安全への投資を怠らない姿勢が、相鉄線の土台を支えています。

 事業基盤である横浜駅西口では、JR直通・東急直通方面を選んだ通勤定期利用者でも追加運賃なく横浜駅を利用できる「YOKOHAMA どっちも定期」や、魅力を創出する「横浜西口エリアマネジメント」の取り組み推進、また未来を見据えて2024年には「横浜駅西口大改造構想」を発表し、街そのものも大きく変わる予定です。

 しかし、相鉄が本当に向き合っているのは、こうした見える投資のさらに先、高齢化によって沿線の活気が失われていくオールドニュータウン問題です。

「住民を動かし続ける」基本思想

 相鉄の宅地開発は当初から一斉入居を避け、徐々に街を広げる手法を取ってきました。それでも30年前に入居したファミリー世代の子どもたちは、成長とともに沿線を離れていきます。そこで打ち出したのが「ターンテーブル」モデルです。

 これは、相鉄線沿線で育った子どもが沿線内で一人暮らしを始め、やがて近くに家を購入し、シニアの暮らしを身近に見ながら、その街を終の棲家に選ぶ。駅前に賃貸・分譲・サービス付き高齢者向け住宅を整備し、住み替えや世代の交代を促し共存できる仕組みを整え、沿線内で循環させる発想です。

 相鉄いずみ野線の南万騎が原駅(横浜市旭区)周辺では商業施設に保育園と子育て支援施設を誘致し、横浜市・横浜国立大学・フェリス女学院大学と連携した「みなまきラボ」で住民自身が街の課題解決に参加する場を育ててきました。開発して終わりではなく、開発と運営の両面から時間をかけて価値を更新し続ける考え方です。

 この取り組みを束ねるのが、産官学連携「相鉄いずみ野線沿線 次代のまちづくり(Future City Project=FCP)」です。駅ごとの地域特性を生かすのが特徴で、緑園都市駅(横浜市泉区)ではフェリス女学院大学と連携した電車到着サイン音を導入し、2024年に大規模商業施設「ゆめが丘ソラトス」が開業したゆめが丘駅(同)周辺では「食と農」をテーマにした取り組みが進んでいます。

 こども自然公園(旭区)で2017年から開催されている「Yokohama(ヨコハマ) Nature(ネイチャー) Week(ウィーク)」も、沿線内外の子どもに豊かな自然を体感してもらい、沿線への愛着を育む機会として力を入れている施策の一つです。

 実はこの思想、ブランディングより古くから相鉄に根づいていました。1987年開発の「サン・ステージ緑園都市・西の街」は、分譲開始時に倍率785倍を記録するほどの人気を集めましたが、同時に住民自身が街の緑化など景観保全を担う「緑園都市コミュニティ協会(RCA)」が発足しています。日本初とされる住民主体のまちづくり組織で、駅周辺の緑あふれる景観は、地域住民による植栽の手入れや清掃活動に支えられてきたものです。

 都心乗り入れも、濃紺色の電車も、ホームドアも、横浜駅西口大改造構想も、住み替えの仕組みも、根っこは同じ「選ばれる沿線であり続ける」という一本の思想なのです。

デベロッパーとここが違う!「鉄道会社」の街づくり

 相鉄はデベロッパーの一面を持ちますが、鉄道が沿線を走り続ける以上、住宅を提供した後も世代を超えて30年、60年と「街」に向き合い続けます。

「沿線価値とは地価のような単純なものではなく、住み続けたいと思っていただけるかどうかです」(相鉄HD 樋原氏)

 相鉄のルーツは相模川の砂利を運んだ鉄道です。横浜駅西口の開発を経て通勤通学路線となり、都市開発と都心への相互直通運転を経て、「選ばれる沿線」を目指して歩みを進めています。人口が減り続ける日本で、相鉄の挑戦は次の100年にどんな答えを示すのか。同じ課題を抱える全国の鉄道会社にとって、一つの手がかりになるかもしれません。