航空自衛隊の新ミサイルが狙うのは“電波”!? これまでにない新装備を導入するワケ

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敵機でも、敵施設でもなく、敵の“目”であるレーダーを狙う新型ミサイルの導入を航空自衛隊が進めています。

航空戦より“前”に使用するミサイル

 2026年8月31日、防衛省は2027年度、すなわち令和9年度の概算要求を公表しました。そのなかで注目を集める装備の一つが航空自衛隊向けの新ミサイル、AGM-88G AARGM-ERです。

 これは航空自衛隊の戦闘機兵装に、これまで存在しなかった“新しい任務”を加えるミサイルです。それは敵戦闘機を撃墜することでも、地上施設を爆撃することでもありません。敵の防空システム、そのなかでも「敵の目」となるレーダーを狙うものです。

 SEAD(敵防空網制圧)やDEAD(敵防空網破壊)といった航空戦に先立つ敵防空網への攻撃に用いられる対レーダーミサイルです。対レーダーミサイルという兵器そのものは新しいものではなく、米国ではAGM-88 HARM(高速対電波源ミサイル)が1980年代から運用され、その後継としてAGM-88E AARGM(先進対電波源誘導ミサイル)が登場しました。AGM-88G AARGM-ERは、このAARGMをさらに発展させ、主に射程を向上させた次世代型に位置付けられます(ERは射程延伸の意味)。

敵がレーダーをオフにしても逃さない技術

 対レーダーミサイルの核心にあるのが「電波を出している相手を追尾する」という特殊な誘導方式です。地対空ミサイル部隊がレーダーを作動させれば、その電波は空中のAARGM-ERに探知され、発信源の位置を特定する手掛かりになります。ミサイルはその情報を利用して防空システムへ向けて飛翔し、電波の発信源(つまり地上レーダー)を破壊します。

 しかし、現代の防空部隊は対レーダーミサイルの存在を当然熟知しています。そのためミサイルの接近を察知すればレーダーをシャットダウンし、電波を消して攻撃を回避しようとするでしょう。

 ここで重要になるのがAARGM-ERの多重化されたセンサーです。AARGM系列は対レーダー誘導だけではなくGPS/慣性航法装置、ミリ波レーダー画像認識を組み合わせた「マルチスペクトル誘導」を採用しており、敵がレーダーを停止した後も、それまでに得た位置情報を基礎に誘導を継続し、目標を識別することができます。

 ここには現代の防空戦をめぐる「センサー対センサー」の競争が凝縮されています。レーダーを点ければ狙われる。だから消す。しかし消せば、今度は別のセンサーによって追跡される。防空部隊にとって、電波を発することそのものがリスクとなり、仮に破壊できなくとも「レーダーを作動させない」状態を強制するだけで一時的な防空網制圧は達成可能となります。

戦いを決するのではなく、戦いを始めるためのミサイル

 さらにAARGM-ERを特徴付けるのがマッハ2以上という高速性です。新型ロケットモーターによって従来型AARGMより速度と射程を向上させ、敵防空網に対する生存性を高めています。

 なぜ高速である必要があるのか。答えは簡潔です。搭載母機自身が、敵の地対空ミサイルの射程内へ入っていくからです。先手を取って敵の誘導装置を撃破可能であれば生存性は向上することになります。

 たとえば島嶼部への敵の侵攻において、地対空ミサイル部隊に上陸されてしまった場合、航空自衛隊の戦闘機がその防空圏へ接近して爆撃するのは容易ではありません。そこで戦闘機はAARGM-ERを発射し、まず敵のレーダーを潰すか、レーダーのシャットダウンを強制させます。防空網の「眼」を奪えば、その後に続く航空攻撃の自由度が高まります。

 AARGM-ERは、一本のミサイルで戦場を決着させる兵器ではありません。しかし航空攻撃を成立させるため、敵の防空システムを構成するセンサーと射撃管制能力を破壊する必須兵器なのです。現状こうした作戦には米軍の助力が必要です。

 航空自衛隊での具体的な搭載機は今後の計画に左右されますが、ほぼ確実にF-35に搭載されることになるでしょう。またF-2への搭載の可能性も考えられます。

 AARGM-ERの導入は、航空自衛隊が「防空偏重の空軍」から、「航空作戦全般をこなす空軍」へ能力を広げることを意味します。レーダーを探知し、その電波を逆手に取り、必要ならレーダーが沈黙した後も別のセンサーで追い続けるAARGM-ERは、日本の航空戦力に新たな一手を加えることになります。