首都の中心駅が「交代!」 旧ターミナルは“映えスポット”化 もう一つの巨大駅には“廃墟” 鉄道急拡大の歪みと今後 タイ

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タイの首都バンコクは鉄道網が大きく発展するとともに、そのターミナル駅の存在も移り変わっています。中心をなす長距離列車の拠点駅は3つに分散。日本では考えられない進展スピードの裏には、黒歴史とも呼べる部分もありました。

バンコクには3つのターミナル駅がある

 タイの首都バンコクは、北から南に流れるチャオプラヤー川の両岸に市街地が広がっています。そのチャオプラヤー川の左岸には、タイの長距離鉄道の歴史を担った、またこれから担うであろう3つの大きなターミナル「クルンテープ・アピワット中央駅」「ファランポーン駅(クルンテープ駅)」「マッカサン駅」があります

 このうちもっとも新しい駅が、2021年に「バンスー中央駅」として開業、その後に名称変更されたクルンテープ・アピワット中央駅です。

 この駅は、かつてファランポーン駅が担っていたタイ国鉄の長距離列車を移管し、さらに国境を越える東南アジア全域の鉄道網のハブも視野に入れた駅として建設されました。さらに同駅は、バンコクの北郊、西郊を結ぶ新たな都市鉄道「SRTダークレッドライン/ライトレッドライン」の始発駅ともなっています。

 クルンテープ・アピワット中央駅の所在地はバンコク市街地中心部の北、「ウィークエンドマーケット」で有名な「チャトゥチャック公園」の西側です。

 3階建ての駅舎は、「巨大」のひと言です。地上レベルにはコンコース、きっぷ売り場、改札口が配置され、2Fと3Fにそれぞれ6面のプラットフォームが用意されています。現在利用されているのは2Fのプラットフォームのみですが、“東南アジアの鉄道網のハブ”を見すえた拡張性は十分と言えるでしょう。

 その2Fのプラットフォームからは「北本線」「東北本線」「南本線」の長距離列車、およびSRTダークレッドライン/ライトレッドラインの電車が発着します。

 ただこれら路線はいずれも同駅が始発、終着駅となり、現在は駅の南側1.5kmほどのところで高架が途切れています。この高架は将来的にSRTダークレッドラインの延伸に利用されるほか、「ドンムアン空港」「スワンナプーム空港」「ウタパオ空港」を連絡する「3空港高速鉄道」でも活用される想定です。

 バンコク市街地からクルンテープ・アピワット中央駅へは「MRTブルーライン」がアクセスの中心手段となっています。MRTブルーラインはバンコク市街地をチャオプラヤー川を2か所で渡る環状部と、「タープラ駅」から西に延びる放射部からなる、「都営大江戸線」に近い形状の路線です。路線は東部では地下鉄、西部では高架鉄道となっていて、クルンテープ・アピワット中央駅とは地下の「バンスー駅」で接続します。

 またこのバンスー駅の地下通路を通じ、クルンテープ・アピワット中央駅の西側に位置する国鉄「バンスージャンクション駅」と相互に行き来が可能です。

役割譲ったファランポーン駅

 中心駅としての立場をクルンテープ・アピワット中央駅に譲ったファランポーン駅は、当初すべての列車の発着をクルンテープ・アピワット中央駅に移管したのち、廃止される予定でした。しかし同駅の設備工事の遅れや利用者の反発などから、その計画は変更され、現在もクルンテープ・アピワット中央駅に乗り入れないタイ国鉄各路線の近距離列車が、バンスージャンクション駅を経由して発着しています。

 ファランポーン駅に降り立つと、その高い天井を持つドーム状の駅舎、頭端式の低いプラットフォームが、“20世紀の鉄道ロマン”を感じさせてくれます。

 現在運行される列車の多くは朝夕の通勤通学時間帯に集中しているため、発着列車の途切れる日中、利用客の姿は少なめです。

 しかしそのレトロな雰囲気が、タイ人、さらには外国人観光客の興味を集め、立ち入り自由なプラットフォームが“映える”写真や動画の一大撮影スポットとして人気を集めています。

 またプラットフォームの一部には歴史的な機関車などが展示され、駅舎内には「タイ鉄道博物館」も併設されています。そのため、観光スポットとしても訪ねたい場所です。

「巨大な廃墟」を有するマッカサン駅

 さて、もうひとつの大きな駅であるARL(エアポート・レール・リンク)の「マッカサン駅」は、数奇な運命と、将来への希望が同居する駅です。

 マッカサン駅は2010年、同名のタイ国鉄駅から約1.5km西に開業しました。当初のARLは、バンコク市街の西にある「スワンナプーム国際空港」までの空港輸送を担う速達列車の「エクスプレス」と、東西方面の都市内交通を担いつつ、同駅の西でBTS「スクンビットライン」と接続するパヤタイ駅から空港との間を往復運行する各駅停車「シティライン」が線路を共有していました。

 マッカサン駅ではエクスプレスが利用するコンコースとシティラインが利用するコンコースが分けられ、前者には同空港を出発する航空会社のチェックインができる「シティ・エア・ターミナル」機能も盛り込まれ、一部で実際に運用されていました。

 しかしARLは開業後間もなく、車両整備などの問題から、エクスプレスの運行を停止します。そしてチェックイン機能も休止します。その後、現在に至るまで、エクスプレスの利用していたコンコースは閉鎖されたままとなっています。

 ただその一方で、マッカサン駅はMRTブルーライン「ペチャブリー駅」からの乗り換えでバンコク都内各方面へのアクセスがよいことから、通勤通学の利用客の人気を集めます。現在はそうした地元客と空港利用客が同じシティラインを使うため、ラッシュ時には積み残しも出るなど、混雑が課題となっています。

 ただこのマッカサン駅には、明るい材料もあります。それは、クルンテープ・アピワット中央駅の項で述べた、3空港高速鉄道の整備計画です。

 同計画では、バンコク都内のパヤタイ駅からラックラバーン駅まではARLの線路を利用することになっています。

 完成の暁には、マッカサン駅は3空港を結ぶハブとなり、エクスプレスのコンコースにシティ・エア・ターミナル機能が復活する可能性もあります。そうなると、10数年にわたり無人だったエクスプレスのコンコースが、再び多くの利用客で賑わうことになるかもしれません。

 ファランポーン駅を発着していた列車をすべて担うはずだったクルンテープ・アピワット中央駅、廃止されるはずだったファランポーン駅、そして空港機能も代替するはずだったマッカサン駅は、いずれも当初の計画から大きく異なる姿で現在を迎えています。

 しかしそこが、計画が決まったら、変更には慎重な日本とは大きく異なり、トラブルがあってもその都度、最適解を目指すタイとの違いなのかもしれません。10年後、20年後にそれぞれの駅がどうなっているか、いまから楽しみです。