タイでJR東日本から譲渡された国鉄形ディーゼルカーが走り始めています。しかも、主要線区の“花形”です。日本での姿とは大きなギャップがありました。
タイで活躍する日本の名車
旧国鉄の「キハ40系気動車」は、1970年代後半から80年代初期にかけ、全国に大量配備された一般型気動車です。車端部2か所にドアを持つ両運転台の「キハ40形」、同様の構造で片運転台とした「キハ48形」、ドアを車体中央に寄せて設置した近郊型とした片運転台の「キハ47形」の3タイプが設定されました。
キハ40系は、国鉄分割民営化にともないJRに継承され、観光列車への改造も含め、長きにわたり運用されました。しかし経年にともない廃車や私鉄、第三セクターへの譲渡が進み、見かけることは少なくなっています。
ただ現在でもこのキハ40系が、主要線区の“花形”として活躍している場所があります。それはタイ国鉄です。
タイ国鉄の軌間(線路の幅)は1000mmで、JRグループ在来線の1067mmからわずかな改造で対応できることから、これまでにも多くの気動車や客車が譲渡されています。キハ40系は、2024年にJR東日本から20両が譲渡され、現地への対応工事が行われたのち、2026年4月から運用を開始したのです。
観光列車として運行中!
筆者は2026年9月、このタイ国鉄がキハ40系で運行する「BANGKOK CONNEX 9003」に乗車する機会を得ました。同列車は、バンコクの新たなターミナル「クルンテープ・アピワット中央駅」から、バンコクから北に約60kmに位置する古都の中心駅「アユタヤ駅」まで、1時間15分で結ぶ観光列車です。
利用した区間は、始発駅のクルンテープ・アピワット中央駅から、LCCの多くが発着する「ドンムアン空港」の最寄り駅となる「ドンムアン駅」までです。
クルンテープ・アピワット中央駅はタイ国鉄の長距離列車と都市型鉄道「SRT」が発着します。SRTのきっぷは自動販売機で購入できますが、BANGKOK CONNEX 9003のきっぷは、有人の窓口でパスポートを提示し、列車と利用区間を指定して購入する必要があります。窓口では英語が使えますが、不安があれば、列車名と目的地となる駅をあらかじめ英語でメモ書きしておいて、スタッフに示せば大丈夫です。
発車時刻は午前9時5分ですが、1Fの改札口が開くのは、発車時刻の20分前です。利用したのが日曜日だったこともあり、発車時刻の30分前には改札口の前に列ができはじめていました。窓側に座りたいなどの希望があれば、早めに並んだほうがいいでしょう。
「新型コロナを防ぐために」って書いてある車内に驚き
改札口が開き、2Fのプラットホームまで移動すると、そこにはホワイトをベースにレッドをアクセントカラーとする新色に塗り替えられたキハ40系の4両編成が、すでに入線していました。
車番はタイ語と日本語で表記され、日本語は先頭から「キハ40-521」「キハ48-516」「キハ48-537」「キハ40-532」となっています。あえて日本語を残すあたりから、タイ国鉄のこの列車に対する“想い”も感じることができるのではないでしょうか。
なおタイ語での車番は「動力車・気動車・運転席あり・エアコン付き」の頭文字を短縮したであろう型式(発音による欧文表記ではKSKH.P)と数字の組み合わせです。
また客室内にも、日本由来のものが残されています。デッキに出るドアの上には「禁煙」「楽しい旅行を JR東日本」の表示があり、客室の壁には「新型コロナウイルス感染症を防ぐために」という懐かしい(?)ポスターが掲げられていました。
利用客のほとんどはタイ人で、発車までの時間には、車両をバックに代わる代わる記念撮影している姿も見られました。アユタヤはタイ人にとっても人気の観光地で、そこに「冷房の効いた列車で出かける」のは、ちょっとした非日常なのでしょう。
「ローカル線の顔」のイメージがもろくも崩れ去る!
BANGKOK CONNEX 9003は定刻に発車し、つぎのドンムアン駅を目指します。ディーゼルエンジンのうなる音は記憶のままですが、一方で違和感もあります。それは走行音です。
キハ40系が活躍した舞台のほとんどはローカル線で、レールの継ぎ目で発生する「カタンカタン」という音が、エンジン音に混じり車内に響いていました。しかしクルンテープ・アピワット中央駅からドンムアン駅へはロングレールが敷設された高架線を走るため、その走行音がないのです。
また同区間はSRT「ダークレッドライン」との複々線で、BANGKOK CONNEX 9003は内側の急行線を走ります。日本ではローカル線の各駅停車運用が中心だったことを思うと、外側の緩行線に設けられたホームに停車する真新しい電車をキハ40系が抜いていくのは、なんとも面白い体験です。
クルンテープ・アピワット中央駅を出て約15分で、BANGKOK CONNEX 9003はドンムアン駅に滑り込みます。SRTダークレッドラインも同駅に止まりますが、プラットフォームは別で、改札内の動線も完全に区分されています。
駅を出てドンムアン駅に向かう歩道橋を渡ると、眼下にはすでに列車の運行がなくなった旧線が、そしてその向こうにはかつての“空港駅”だった旧ドンムアン駅が、そのまま残されていました。この新旧のコントラストは、都市型鉄道、そして長距離鉄道の発展と主役交代を強く感じさせてくれました。