小さい船だからこそ有用! イギリス×横浜の“不思議な輸送艇”「あかね」誕生 急ピッチで増勢へ

雨で需要が増える業界と言えば?

南西諸島に向けた自衛隊の海上輸送力強化が急速に進んでいます。数千トン級の、ようこう型・にほんばれ型輸送艦に続き、より小型のあかね型輸送艇が進水しました。

可動式スロープにより海岸に直接揚陸可能

 自衛隊の新型輸送艇「あかね」が2026年9月17日、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)横浜事業所鶴見工場で進水しました。同艇は2024年度予算において「機動舟艇」の名称で3隻の調達が決まった、あかね型輸送艇(MSV:Maneuver Support Vessel)の1番艇となります。

 防衛省・自衛隊は海上輸送力強化のため、陸海共同の輸送艦部隊「自衛隊海上輸送群」を2025年3月に設立しました。「あかね」も同群に導入される輸送艦艇の1つであり、来年(2027年)3月に竣工した後、奄美大島の海上自衛隊奄美基地で新編される第3海上輸送隊に配備される予定です。

 あかね型の基準排水量は150トン。全長35m、最大幅8m、喫水1.5mで、車両数両を含む数十トンを輸送する能力を持ちます。南西諸島の離島など、港湾施設が小規模で大型船が接岸しての荷役が難しい状況を想定し、砂浜に直接乗り上げて車両などを揚陸する「ビーチング」を行えるよう、艦首側にランプウェイ(可動式のスロープ)が設けられています。乗員数は約10人で、武装としては12.7mm重機関銃を装備することができます。

イギリス企業の輸送艇を日本向けに改設計

 あかね型MSVのベースとなったのは英BMTが独自に開発した特殊な船型(トライバウ・モノハル)の高速揚陸艇「CAIMEN-90」です。関係者は「艦首が三胴で艦尾が単胴に近い船型」と説明します。JMUはBMTと連携し、自衛隊向けとして改設計・建造を行いました。

 優れた耐航性によって重量物を搭載した状態で高速航行ができるという特長を持ち、艦尾に搭載された3基のウォータージェットにより、約18ノット(約33.3km/h)の速力を発揮することができます。防衛装備庁によれば「BMTのカタログ品(CAIMEN-90)に比べ、陸上自衛隊の要求を踏まえ、船体の大きさや通信装置などを変更した」としています。

「あかね」の命名・進水式には荒井正芳陸上幕僚長や廣瀬崇JMU社長らが出席。小泉進次郎防衛大臣の命名書を若林洋平防衛大臣政務官が代読し、支綱を切断しました。進水というと船台から船が滑り落ちていくイメージがありますが、今回は陸上の船台からクレーンで船体を吊り上げて空中を移動し、海面へと着水させるという方法で進水が行われました。

 海上輸送群の輸送艦艇の名称は太陽に由来するものが付けられることから、古くから和歌などで太陽の枕詞として親しまれ、朝夕に空を染める静かな力強さを想起させるものとして「あかね」が選ばれました。

 さらに進水に合わせて陸上自衛隊東部方面音楽隊による新曲「あかね―蒼を駆ける―」も初めて披露されました。今後はあかね型のテーマソングとして使用することも考えられています。

あかね型MSVは奄美大島への配備を予定

 防衛省は南西諸島など島嶼部への侵攻阻止に必要な部隊などを迅速かつ確実に輸送するため、機動力に優れた輸送船舶の配備を計画しています。

 2027年度末までに基準排水量約3500トンのようこう型輸送艦(LSV:中型級船舶)を2隻、基準排水量約2400トンのにほんばれ型輸送艦(LCU:小型級船舶)を4隻、戦車などを砂浜に揚陸するあかね型輸送艇(MSV)4隻の計10隻を導入します。いずれも陸上自衛官が主体となって運用が行われることになります。

 陸幕広報は「あかね型は基本的にLSVやLCUが入れないような小さな港湾や砂浜に物資を運ぶことになる。大きい港湾があれば、大型の船で行って直接降ろせば良いが、そういうところばかりではない。具体的な装備品は言えないが、必要な人と物と装備と車両は全て載せられるようになっている」と話していました。

 すでに海上輸送群では、ようこう型LSVの1番艦「ようこう」が第1海上輸送隊(海自呉基地)に、にほんばれ型LCUの1番艦「にほんばれ」、2番艦「あまつそら」、3番艦「あおぞら」の3隻が第2海上輸送隊(海自阪神基地)に、それぞれ配備されています。

「あかね」が配備される第3海上輸送隊は奄美大島の海自奄美基地(鹿児島県瀬戸内町)に置かれ、2027年3月に人員約20人で新編される予定です。2番艇は2026年度中の命名・進水を予定しており、2027年度中には3隻を追加して、計4隻のあかね型MSVが揃います。

 防衛省は奄美大島の新たな拠点として、瀬戸内町の古仁屋港須手地区に「おおすみ」型輸送艦などの接岸に対応した施設の整備を計画しています。施設の完成は2032年度を見込んでおり、整備ができ次第、第3海上輸送隊の移駐が行われることになります。